「クルミちゃんっ。ジャンがね、そろそろ貴女も客を取れるんじゃないかって。それでね、初めての客にしてくれないかって言ってるのよ〜!」


駄目だこの女。私が何とかしないと…。

また記憶を持ったまま転生して早5年。何度この言葉を言った事か。もちろん心の中で。
新しい母はキキョウさんのように美しく、そしてキキョウさんのようにヒステリックだったのだ…。

娼婦をしていた女は非常に情緒不安定だった。
私を、人生でたった1つの宝物だと言いながら優しく暖かく接してくれる日もあれば、死ねばいいのにやらと物騒な事を言いながら首を絞めてくる日もあった。まあ、あんな細腕の力などたかが知れてるけど。

私がもし前世の記憶を全く持たずにこの女の元に生まれてきてたら、絶対死んでる。それか精神的に病んでる。
女がイライラしている時は絶をして気配を消しとばっちりを防ぎ、機嫌が良い時は泣いたり『あー』と声を出し存在をアピールして世話をさせ、と体が動かせない時は本当に頑張ったものである。誰か褒めて。
だが、一番の苦労というか、辛いことというか・・・。女はたまに男を家に連れ込み、そして私の目の前で!自分の子どもの目の前で!その男達と事におよぶという…!初めて男を連れ込んでやりだした時は驚愕と羞恥で消えたくなった。
自分の容姿はなぜか前のゾル家の時とほぼ一緒だし、一番初めの日本の優しい母親の顔がもう思い出せないくらい強烈な洗脳系母親キキョウさんのせいで、女に対して自分の親だという認識はなんともし辛いが、赤ん坊の頃から一番見ている顔なのだ。そんな人が見知らぬ男たちとやってるところを誰が見たいだろうか、私にそんな性癖はない。あ、でも二次元なら…うぉほん、自重します。
しかも目の前で追加料金を払って変態プレイを行う輩が多く、何度か心が死にかけた。よく来る海兵さんとの幼児ぷれいだったり、島の神父さまとのSMプレイだったり…。絶してこの場から消えたいと何度も思ったがいかんせん幼児時代は動けず本当にもう…。あれ?もしかしてもう自分では気づけない程に精神病んでる?え、どうなんだこれ。
いや、我が癒しのにゃんこ達が前世と同じく寄って来てくれたからまだ大丈夫。ぬこかわいい。

まあ、体が自由に動かせるようになってからは母に何か言われない(見られてる方が興奮するとかいう変態な常連)かぎり、猫達と戯れたり、少し遠くの山に修行しに行ったりしていた。もちろん早く独り立ちする為である。とりあえず念が全て使えるのは安心した。

そう何故安心したかというと、この世界が、あの雑誌の看板である誰もが知ってる王道冒険漫画、ワンピースの世界だと気づいたからである。ハンターの次はワンピースとか…何これ、ジャンプの有名どころツアーなの?何故私。まあでも、生まれてしまったものはしょうがない。でももし次があるならとりあえず漫画とアニメとゲームとパソコンがある世界にして下さい!何方か存じませんが頼みます…!
と私にツアーをさせている謎の誰かに祈りながら、この世界で生存率をあげる為、より修行を頑張った。何より、娯楽もほとんどないし。

そして、念も一通り使えるようになった頃から、前世では全く考える必要がなかった将来について考えるようになった。
海軍は危険だし、だからといって海賊はもっと危険だし、でもこの島からは出たいし…と限られた選択肢の中から最良の道を選択するのは容易だった。
つまり、一人旅できる程度に海の知識や船やらを獲得した後、グランドラインを出て、最弱の海イーストブルーに行って永住すればいいのだ。完璧だなこれ。まさにパーフェクトプラン。パーフェクトと言えば脳内で勝手にパーフェクトボディって宮野ボイスで再生される謎。あの次回予告は素晴らしかった。


と、長々と今までの人生と私の今後のパーフェクトプランを振り返っても、現実では数秒しか経っていないし、目の前の2人の笑顔も変わらない。

いつものように女が男を連れてきたのでこっそり家を出ようとしたら、珍しく呼び止められしぶしぶ女の元に向かうと冒頭の台詞を笑顔で言ってきたのだ。それはもうニッコリと。良いことだ!みたいな顔で。

…うん。何言ってるのかな〜?
私、まだ、5歳!え、5歳で客取るって有り得ないよね?つか無理だよね?え、この世界では当たり前なの?私の常識が可笑しいの?
しかも、ジャンとは母の常連の上記に挙げた変態神父だ。普段は教会で人当たりの良さそうな笑みを浮かべていて町の子供達に大人気だが、叩かれたり踏まれたり果ては斬られたりして興奮する行き過ぎたM男だ。
そんなやつが初めてになるとか…無理だし嫌だ。

…逃げよう。
これからの事は、逃げてから考えよう。

一緒に気持ちよくなろうとか初めては優しくしてあげるとかなんとか言いながらすでに一物を服の上からでも分かるくらい固くさせて鼻息荒く私に近づいてくる変態は無視して、一応今まで住む場所とたまにではあるけど食事を用意してくれたり世話をしてくれた女に感謝の意味を込めて頭を下げて、私は部屋の窓から脱出した。


まだ夕方ではあるが、島はもう既に夜の気配が漂っていた。酔っ払った町の大人達や客引きをしてる綺麗なお姉さんや大声で怒鳴り散らし小競り合いを起こしている酔っ払った海賊達の横を絶をしながら当てもなく駆け抜ける。

ここからパーフェクトボディ、じゃなくてパーフェクトプランをどうやって実行しようか。
計画の思わぬ綻びに焦る気持ちはあるけど、何故か私はわくわくしていた。
そう、主人公達と同じ、これからが私の冒険…!

2015/06/13
でも実はこのわくわくの90%は家族に束縛されない、自由というものへのわくわくです。
前、ゾル家では結局最後まで家という鎖は千切れなかったので。

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