慌てる私の頭の中に誰かの声が聞こえた気がした。

『神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと――』





「い、一番いいのを、頼む」
「…え?なんて?」
「一番いいのを………ん?」

私、「大丈夫だ、問題ない」なんて多分言った事ないけど分岐点ってどこだ?とか思いつつ、かの有名な時間の巻き戻しが私にも起こったのかもしれないから一応ベストアンサーを述べた。
そしたら、何故か聞き慣れた声が聞き返してきたので、もう一度はっきり言おうとすれば顔に何かが当たってこそばゆい感覚。

反射的に目を開いて、何が当たっているのか見てみると、キューティクル溢れる髪、そしてぱっちり猫目。つまり目の前には私の顔を覗きこんでいるイルが、居た。距離ちけぇ…!イルと私が兄弟とかじゃなかったら、目覚めのキスをされるんじゃね?とときめくぐらい近い。

ん?目覚め?

そこでやっと、自分がベッドの上に横になっている事に気がついた。

「クルミ?大丈夫?」
「あ、うん」
「そう」
イルは私が本当に正常であると判断したのか体を起こし近くに置かれていた椅子に座った。
イルに続いて私も体を起こし、まずは状況をチェックする。体、異常なし。外、太陽の位置的に昼くらいかな。私の服、朝と一緒。てことは……どういうこと…?

「…イル」
「ん?」
「なんで私、寝てたの?」
「えっ、覚えてないの?」

とりあえず、分からない事は分かっているだろうイルに聞こうとしたら、珍しくもの凄く驚いているイル。驚き顔のイルも可愛いっす。
それからすぐに小首を傾げて、多分どう私に説明するか悩んでいるイル。悩んでいるイルも(以下略)

「…結論から言うとクルミは倒れたんだよ」
「…え、何で?」
私にどう伝えるか決まったらしいイルは首を元に戻して簡潔に言った。…もっと詳しい説明プリーズ。

「ずっと纏ができなかったからオーラを放出し過ぎてだよ。まあ倒れる直前に、やっとできたけど」
「てん?」
イルはベッド付近に備え付けてある紙とペンを取って"纏"と書いて見せてきた。
「オーラが拡散しないように、体の周囲にとどめる事だって。今もクルミも、もちろんオレもしてるよ。何か周りがいつもと違って見えるでしょ?」

確かに言われてみれば、体に何かもわもわしたものを纏っている。

あ、思い出してきた。確か、父さんに無理やり精孔開かれたんだったな…。纏が出来てるって事は時間の巻き戻しなんか起きてないな、そりゃそうか。

「絶、練、発、そして今もしてる"纏"。これを念能力の四大行って言うんだって」
紙には"絶""練""発"という文字が追加して書かれた。

「絶は精孔が閉じてオーラが全く出てない状態の事で、練は精孔を広げて通常以上のオーラを出す事」

イルはゾル家にしては説明上手さんだな。良いお兄ちゃんになりそう。記憶の片隅にあった念能力の詳細を思いだしながら、そんな事を思った。
ただ、説明の中に発がなかったので聞いてみたら
「発は纏と絶と練ができるようになったら教えるって」
とのこと。

発といえば水見式だっけ?
まあ、絶対死ぬと思ってたのに無事生きてたんだからゾルディックオリティに感謝しつつ頑張ろう!
目指せ!デスノート!!

「あ、父さんが1週間後には3つともできるようになっとけって」

無茶ぶりですやん


2014/12/07
クルミが纏がギリギリまでできなかった理由は、あまりの焦りとまさかのハサムに裏切られたというショック(笑)によりシルバさんの指示をきちんと聞いてなかったからですね。でも死を感じた瞬間に本能的にできた、という感じです。

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