「あ゛あ゛あ゛ああああ」
すこし苦労したけど、やっと私も音もなく歩いたり走れるようになったり、手の先を鋭く変形できるようになったりと順調に暗殺者見習いしてます。
イルは何でも私より早く修得できてたけどね…。
流石ハイスペック兄ちゃんだぜ。
あと4枚か。
「も゛、もぅ許じでぐれ゛え゛ええ」
あ、でも意外な事に気配を消す事に関してはイルより私の方が早くできるようになったなあ。ちょっと悔しそうなイルは可愛かったな。
あ、2枚は一気にやっちゃおう。
「あ゛あ゛、なぐな゛っぢまっだよお、オれのっおレの、」
正直、本当に暗殺者にならなきゃいけないのかあ、と憂鬱だったけど、前の人生では経験し得ない事をする日々は充実していて楽しかった。それにゾルディックオリティのおかげで、何でもできるようになるし、成長速度も早いし。
次は…どこかなあ。複数あるものからだから…あ、じゃあ。
「や゛めっ、じ、ぬっだずげっ」
でもそれは、習い事をしていてメキメキ上達して嬉しいって感じるのと一緒だと。流石に暗殺者になって人を殺すなんて不可能だと、思っていたのに。
今、なんの感情も沸かないのは。
「ひっ…あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、目が…おレ、のォ、メがあ゛あアアァぁぁあああ゛」
ただただこの声が五月蝿いとしか思えないのは。
「良いぞクルミ」
ただただ、父さんに褒められた事が嬉しいと、それしか思えないのは。
目の前のただのものに成り下がったもう五月蝿くできないやつに何も感じないのは。
涙も悲鳴も出ないのは。
もう、私は、
「イルミもクルミも、初めてにしては良く出来たな」
父さんが微笑みながら血だらけのイルと私の頭を撫でる。
イルは嬉しそうだし、私も純粋に嬉しい。まあ、2人とも顔には出てないだろうけど。
「でもなんで拷問なんかする必要があったの?ただ殺すだけじゃダメだったの?」
言われた事に疑問なんか感じず、いつも言われた通りにするイルにしては珍しく父さんに疑問をもらした。
私は拷問の必要性の有無についてはあまり気にならず、そんな事より血が気になる。早く落としたい。イルも私も生きている人を相手にするのは初めてだったから血を避けるなんて芸当ができるはずもなく血まみれである。いやー、人間ってどこ切っても血が出るんだね。て、当たり前田のクラッカーですよねー。…この表現もう古いか。
「ああ。依頼によってはターゲットから情報を引き出さなければいけないものもあるからな。拷問はできて損はない。次は道具も使ってみるか」
今日の母さんチョイスのふりっふりの白いドレスも真っ赤である。もうこれは着れないな。
「…ふーん。…クルミ?どうかした?」
イルは私が会話を半分も聞いてない事に気づいたようで話を振ってきた。
いや、というか
「血が気持ち悪いから早くシャワー浴びたいなあって」
あの後、気になってしょうがなかったから部屋に帰るイルとは別れて拷問部屋近くに備え付けられているシャワー室に入った。
脱いだ服をゴミ箱に投げ入れてシャワーを浴びる。
こびりついて落ちないのではないかと思った血の跡も、匂いも、シャワーが当たったところから一瞬で消えていってるのに、何故か今後一生消えない気がした。
目の前の曇りひとつない鏡にはいつもの無表情なクルミ=ゾルディックという"私"が居た。
2014/11/22
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