「ねえ、ナマエは今の季節は好きかい?」



 とろん、といつもながらの微笑で聞いてくるのはマツバ。
 いきなり何を聞いてくるのかなあ。会って最初に聞くことじゃないよね…。でも、いつも突拍子もないことを聞いてくるから、少しは慣れているけど。
 それにしても、今の季節かあ。秋になりますよーっていうくらいの感じだよね。



「…あんまり好きじゃないかも」


「どうして?」



 …マツバ、近い。もうちょっと離れてほしいな…。



「ええと、寂しくなっちゃう…から…」


「ふーん、理由は?」


「だって、夏って元気なイメージがあるけど、それが終わったら段々と寒くなってきちゃうのは、元気がなくなっちゃう感じで…あ、あと海に入れなくなるのも嫌だな」


「ナマエって素直だよね」



 ごつごつした大きい手で、よしよし、と頭を撫でてくる。
 マツバ、こんな大きい図体して甘えただからなあ。こういう時はされるがままに、が一番。うん。
 マツバを見つめる。顔はいつものとろん、とした笑顔じゃなくて、空に目線を向けて、寂しそうな顔。

 …千里眼、という力は扱いが大変らしい。生まれてこのかたその力を持っていても、まだ手にあまるところがあるらしくて。
 甘えてくる、ということはその関係で何かあった、ということ…かな。ちゃんとマツバは言ってはくれないけど、なんとなくそうなのかな、と思う。
 だから、私に出来ることはマツバからの行動を受け入れることくらい。マツバがそれで元気になってくれるなら、私も嬉しいし。



「…ナマエ、抱きしめてもいい?」


「う、いい、けど…うぐ」



 マツバの紫色のマフラーがどアップ。胸におさめられたみたい。額に鎖骨が当たっている。
 ぎゅむ、と背中に回っている両腕に力が入る。ちょっと苦しい。

 頭に吐息を感じる。はあ、と息を吐いてるみたい。余計な力が抜けて安心したような溜息。毎回私に触れると、そんな溜息を吐く。
 手持ち無沙汰だから、両手をマツバの背中に回す。ぽんぽん、と叩いてあげる。



「ナマエ」


「あ、嫌だった?」


「ううん、全然。ありがとう」



 くっついてるから、声が体と体を伝って響く。変な感じだなあ。ぐぐ、ともっと力が入る。上半身がマツバにぺったりくっつく。苦しい。



「ちょっと、苦しいよ」


「あ、ごめん」



 ちょっと力が緩まった。息しやすくなる。



「…ナマエ、僕、紅葉が美しいこの時期は好きだけど嫌だな。だって、ナマエの言うとおり眠る季節に入ろうとしているから。寂しくてしょうがないよ」


「…そっかあ。寂しいんだ」


「うん。だから、こうしてくっつきたくなる。こうして自分以外の熱を感じると、安心する」



 体が離れる。あ、確かに。くっついていると安心するなあ。
 マツバの顔は、さっきの寂しい顔じゃなかった。優しい目をしている。大丈夫になったみたい。

 なんだか、お返しがしたくて。目一杯腕を伸ばしてマツバの頭を撫でてあげる。よしよし。
 マツバはびっくりしたみたいだけど、とろん、と笑って見せて、またぎゅ、と抱きしめられた。苦しいなあ。









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