どもり過ぎでしょう、私。格好が悪い。

 一歩外に出れば、冷たい風。春になりかけているとは言え、まだまだ寒い。
 溜息。

 とぼとぼと公園の方へ歩けば、クダリがベンチに座り、隣でデンチュラをひっくり返し、腹を撫で回して戯れておりました。デンチュラは寒さに弱いはずですが、平気なのでしょうか。



「あ、ノボリー!どうだった?」


「ええ、まあ。それより、デンチュラはこの寒さの中で…」


「へいき!真冬じゃないから、ね、デンチュラ!」


「ぢゅ!」



 確かに、弱った様子ではなく、裏返りながらも顎の触覚と足を動かして、返事をするデンチュラはむしろ活発な様子。それに久々に外に出られて嬉しい様です。
 私もシャンデラを出しましょう。寒いので、温めて頂きましょうか。カーディガンに隠れておりましたが、実はボールをベルトに付けていたのです。シャンデラの入っているボールを外して、投げる。



「デラッ!」


「シャンデラ、申し訳ございませんが、温めて頂けますか」


「デラッシャン!」



 シャンデラは迷うことなく即座に返事をくださいました。
 クダリの隣に座って、お願い致します、と声を掛ける。そうすれば私の膝の上で少しだけ浮いて、炎を弱めてくださる。後は私が腕を回せば、じんわりと温かい。
 寒い日はこうして温めてくださいます。私冷え性なので、とても有り難いことです。

 シャンデラの温かさを堪能していると、クダリがこちらを見てきました。目線は…紙袋。ああ、そうでした。



「あの方が分けてくださったチョコチップクッキーです。どうぞ。よろしくお伝えください、とも言われました」


「わ!やっぱりお菓子だ!やった、ありがとう!」



 早速口を開けて、おいしそう!と叫んでおります。家で食べなさい、と嗜めようと口を開こうとすると、クダリは一つ摘まんでぱくり、と食べてしまいました。
 やっぱりおいしい!と目を細めて笑う。体を起こしてそれを見ていたデンチュラが興味津々でクダリに寄り添う。ちょっとだけ、と言ってクッキーを半分欠いて、デンチュラに。青い目が輝いております。
 あまりポケモンに人の食べ物をあげてはいけませんが、その一連の流れを見て、嗜める気が萎みました。まあ、少量で頻繁にあげなければ良いのですし。

 シャンデラがくるっと回って、私の方を見る。食べたい、とおっしゃっているようで。クダリが片手に持っている半欠けをもらって、差し上げる。
 嬉しそうに笑って、体を左右に揺らしております。可愛らしいですね。思わず顔が綻ぶのを感じます。


「ノボリ、お礼言っといてね」


「かしこまりました。デンチュラとシャンデラも喜んでいました、ともお伝え致しましょう」


「よろしく。それで、どうだったの?」



 片割れを見れば、にんまりと意地悪い顔で笑っております。クッキーで話が逸れた、と思っておりましたが。騙せないようですね。



「お直しが無くても、お茶をしよう、ととりつけることができました…」


「うん、で?」


「…以上です」


「…それだけ?」


「…はい…」


「まあ、ノボリにしては行動したよね」


「私自身でも、そう思います」


「あとはカミツレの誤解を解かないとね」


「いきなりカミツレ様とはそういう関係ではございません!とは言えませんよ」


「話をそういうこと、言える流れを作るのは難しいかもね」


「ええ」


「きっとあの子、ノボリがこんな思い悩んでいるとは思わないだろうねえ」


「…そうでしょうか」


「そうだよ!立ち振る舞いと見た目で、大人だなあって思っているんじゃない?で、名前は?」


「……あ」



 伺うの、忘れておりました。
 私の表情を見て、クダリは腹を抱えて笑い出しました…シャンデラにオーバーヒートを指示してしまうところを、抑えました。









 私って、他人に対して淡白な人間だ。
 自分は努力で変わることができるけど、他人は私がいくら変わろうと、受け入れようと努力しても、変わらないし、受け入れることができないことがある。それを幼い頃から私は知っていた。だから、今がこうなったと思うけど。
 表面上の信頼関係。認め合うけど、それだけ。深くは関わらない。それが私の周りの人間との関係。

 だから、好意を見せられても、困る。どうしたらいいか分からないから。仕事のおかげでお礼は言えるようになったけど、頂いた言葉を自分の中でどう処理していいか、分からなくなる。
 基本的に自分にも他人にも、不器用なんだと思う。

 …洗い物、終わり。
 ここは暖房効いてないから、早くストーブのある部屋に戻ろう。



 でも、戻っても。やることがない。
 今のところお直しは終わっているし。お客様がいらっしゃらない限り、暇。お掃除も…特に必要無い。

 ストーブ近くに置いてある椅子に座る。ひざ掛けはしないでおこう。寝ちゃいそうだし。
 シキジカはうとうとしている。ほおっといてあげよう。



 …暇だと、色々考えてしまう。
 ノボリ、さん。サブウェイマスターさん。クダリさんという双子の兄弟がいる。紅茶が好き。ポケモンが好き。お洋服に理解がある。あ、あと黒が好き。気遣いのできる紳士な人。笑顔が、不器用。

 ノボリさんとお茶をするのは、嫌じゃなくて。むしろ、落ち着く。
 何故か。
 きっと、似ているのだと思う。私達。
 不器用なんだ、お互い。

 これから過ごす時間が増えると思うと、不安と楽しみが半々。
 …私が今出来ること。未来を不安がるのではなくて、パウンドケーキを作って待っていること、だな。



 膝に重み。見やれば、前足を乗せているシキジカ。
 くりくりとした大きな瞳が、どうしたの、と言っている。

 このシキジカは生まれつき鳴けない。たまごの中にいる時に声帯がきちんと出来ていないまま生まれたからと、お医者さんから聞いた。その反面か、元々の性質か分からないけど、賢い。それ故に、自分を抑えて考えて行動できてしまう。だから、安心して外に出せるのだけど。
 そんなシキジカが、ノボリさんに懐いて、双子のクダリさんを見つけて、ここまで連れて来てしまった。これは、どう言う事なのだろう。自分中心に行動しない子なのに。

 頭を撫でる。目を細めて、受け入れてくれる。…可愛い。



 扉に人影が見えた。お客様だ。
 ごめんね、お客様だよ、とシキジカに声を掛ければ頷いて離れてくれる。

 ノボリさんのこと。きっともっとこれから解る。
 私、少しだけかもしれないけど、変われるかもしれない。そんな気がした。








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