フィナンシェ、貰っちゃった。しかもココア!
 美味しいよね、フィナンシェ。今日のおやつにしよう。しかも、多分これ手作りだよね。ノボリに分けてあげようかな。どうしようかな?

 お直し屋の子、良い子だった。
 普通、そっくりな顔のやつが来たら双子だと思って、来ていること喋っちゃうよね。きっと、仕事に誇りをきちんと持っているんだろうなあ。
 家庭的な子だし。お堅いノボリにはお似合いだと思う。

 あと、あの雑誌が置いてあった。カミツレの出ている雑誌。しかもあのブラウス着てるページ。きっと、あの子勘違いしちゃったんじゃないかな。
 ぼくって本当、目敏い。でも、そのおかげでノボリに色々教えられる。



 さて、ノボリにどうやって教えてあげようかなあ。
 あー、寒い。早くギアステーションに戻ろうっと。









「クダリ…貴方また、その革靴のままで外に行ったのですか…」



 私自身でも分かるくらい、恐ろしい声が出ました。
 しかし、抑えられません、この声。クダリはその白い革靴が汚れることが、どんなに大変なことが分からないのです。
 磨くのがどんなに大変か、教えて差し上げなければ…。



「ノボリ、声怖い。まあ、とりあえずこれでも食べて落ち着こう?」


「クダリ…そう言っても誤魔化せませんよ……と、それは、フィナンシェ?何故急にそういったものを」


「まあまあまあ!とりあえず食べてみなって!」


「ちょっと、うぶっ」



 片手で後頭部を押さえられ、力強く無理矢理押し込まれました。どういったことでしょう。苦しいです。
 フィナンシェは、ココア味のようです。さっくりとした表面にしっとりとした中身。美味しいです。でも、どこかで食べたことがあるような…。

 食後で、いつも通り紅茶を入れておいてありましたので、フィナンシェを食べ終えてから飲みました。ああ、合っておりますね。
 美味でした。しかし。



「これは…どこで……」


「ふふーん、どこでしょう?ノボリが良く知っているところだよ!」


「……実は、食べていて、どこかで食べた味だと思ったのですが…分かりません。ヒントをください」


「えー?しょうがないなあ。じゃあ、ヒント!じゃじゃん!シキジカ!」


「へっ?も、もう一つしか思い浮かばないのですが…」


「考えているので正解、だよ!」


「えっ、どういう経緯で…」


「まあ、落ち着いて聞いてよ?」



 クダリからその経緯の粗筋を聞く。なるほど。あのシキジカが私とクダリを間違えたのですね。そうして案内されるままにお直し屋に行ったと。ふむ。そして、フィナンシェはお詫びに、と受け取ったものだと。
 …今顔が薄ら笑っているような気が致します。きっと、そのような対処を取れるのは、さすがというべきだからでしょうか。双子のデリケートな部分を、上手く避けてくれている。
 クダリもあの方のことを褒めている。なんだか、自分のことのように嬉しい。



「なるほど、分かりました」


「ノボリ、顔がちょっとにやけてる」


「うるさいですね…」



 事実ですので、咎めないでおきましょう。



「あと、きっとノボリが気付いてないこと、教えてあげる」


「は、はい?」


「あのね、お菓子はきっと、あの子の手作りだということ。シキジカは声が出せないということ。そしてなんと、カミツレとノボリが良い関係って勘違いしていること」


「は?ま、待ってください、今頭がいっぱいいっぱいです、まず、手作り?」


「うん、そう。お店で売っているものだったら、あんなに焼き色とか形が違うことはないだろうし。出してくれたとき、少し恥ずかしそうだったし」


「はあ、なるほど…私、知らないうちにあの方の手作りを食べていたのですね……次に、シキジカ?」


「うん。シキジカってもっと活発に鳴くでしょ?鳴いたことみたことないでしょ、ノボリ」


「確かに…そして、次がどういうことですか?!」


「わ、大声急に出さないでよ。うーん、だって、女物をお直しに出して、直してもらって結構直ぐにカミツレが着て雑誌に載ってたんだよ。で、その雑誌が置いてあったの。ご丁寧にそのページ開いたままで。読みかけかな。そんなに向こうはノボリのこと知らないから、そう勘違いしちゃってもおかしくないと思う」


「……なるほど」


「受け取ってすぐに渡したじゃん、ノボリ。その日に渡してた筈だよね」


「そうでしたね。カミツレ様はお忙しい方ですし、渡せる時に渡しておいた方がいいかと思いましたし」


「ノボリは頼まれただけなのにね、お直し。上手く誤解、解きなよ」


「はい……って、貴方本当に目敏いですね。私、ここ最近自分の気持ちに気付きましたのに」


「んふふ。いつものことじゃん」


「そうですね。まったく」


「あ、あとさ、ノボリあの子の名前聞けなかったって言ってたでしょ?ぼくあの子の名前聞いちゃった。教えてあげようか?」


「なん、と……嫌です。私自身で聞きたいので」


「そういうと思った!」



 くすくす笑うクダリ。
 私達は、こうやって合う時は合うのです。まあ、主に私の柔軟性の問題ですが。
 なんだか、私まで笑えてくる。肩の力が抜けるような、余計な力が入っていない笑み。
 それを見たクダリが、驚いた顔をしていました。どうしたのでしょう。



「ノボリ、あの子を捕まえなよ。逃しちゃダメ。分かった?」


「は、あ…最善を尽くします…」


「うん!」



 クダリの笑顔が眩しい。太陽のようです。
 なんだか気恥ずかしいですが、お礼を言おうと思って、口を開こうとすると。



「ボス、そろそろトレイン出ますよ」



 インカムから声が。…呼ばれてしまいました。行かなくては。



「クダリ、さあ行きましょう」


「うん、分かった!それとね、ノボリが言おうとしてたこと、分かるから」


「…ええ、ありがとう、ございます」



 思い悩むことなく、自然と礼の言葉が出ておりました。








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