「あ、新しい紅茶買ったんだ」
本日は休日。基本的に週に一度休まなければならない、という規則はありますが、役職に就いていれば中々休むことは儘なりません。
ですので、久々の休日。家事を済ませ、買い物を済まし、リビングでポケモン達の体調を見ていたところにクダリがやってきました。どこに行っていたのでしょう。気に入っている細いリブ生地の白Vネックカットソー。いつもつけている文字盤が黒でシンプルなシルバーの時計。それに濃紺のスキニーデニム…それは私のものですがまた勝手に履いたのですね…。もう、慣れましたよ。ええ。双子ですから、体系にあまり差異がありませんし。しかし、着るときは一言声をかけてほしいものです。
そんなクダリが手にしているのは、ホドモエのマーケットで購入したアッサムの茶葉が入った缶。あのお直し屋で教えていただいたものです。
やはり気付きましたか…。こういうところは目敏いのです、クダリは。
「購入してきました。でも、貴方は飲めないでしょう」
「うーん、最近はそうでもないよ?」
「おや、どういう風の吹き回しですか」
「ぼくも大人になってきたってこと!」
もう私達は十分大人だと思いますが…。
クダリはカフェインの入ったものがあまり体に合わないようで、紅茶やコーヒーといったものを飲みません。私はカフェインを摂取しても変わりありません。まあ、私、コーヒーは味が好ましくないので飲めませんが。双子ですが、そういった面もあります。
そういった類のものに自ら近づかないクダリが、どういった了見でしょうか。
「デラッシャン!」
紅茶の茶葉が入った缶だと分かったシャンデラがクダリの元へ行きます。
シャンデラは私の影響か、紅茶が好きです。嗅覚器がきちんと備わっているので、匂いを嗅ぐことが好きなようで。
クダリが蓋を開けて、シャンデラに嗅がせている。左右に揺れていて、嬉しそうです。
「じゃあ、そんなクダリにそれを入れて差し上げましょうか」
「でも、少しで良いよ。ミルクもちょうだい!」
「かしこまりました」
ともかく、誰かと飲むお茶というのは美味しいものです。
「そういえばノボリ、コートよく綺麗になったね」
アッサムを頂きつつ、余韻に浸っていると、クダリが聞いてきました。
コート、とは、サブウェイマスターのコートのことでしょう。あれは波乗りの水しぶきを受けて、その後すぐに岩雪崩の砂埃と岩の破片をもろにかぶってしまって、流石にポケモンバトルに耐えうるように、と丈夫に作られたコートでも汚れてしまいました。
お直し屋の方に綺麗にして頂けたのでまた着ることが出来ましたが…今までの汚れたり破れたり焦げたりしてしまったコートは、もったいない話ですが捨ててしまっていました。
「ええ、お直しをして頂いて。見違えるように綺麗になっていましたでしょう」
「うん、びっくりした!お直しって、お直し屋さんでしてもらったの?」
「ええ」
アッサムをすする。
私達の母は、服や鞄、靴といった、身につけるものの質の良さを見極めるため、様々なことを教えてくださいました。それが今も生きていて、所持している身につけるものは、長くもつ質の良いものばかりです。
なので、その延長でお直しについても教え込まれました。
「ふーん。どこにあるの?」
「あの裏路地の通りがあるでしょう。そこにあります。老舗のようで、腕は確かですね」
「ライモンにあるんだねえ、そんなとこ。ぼくもいってみようかな」
「貴方器用なのですから…ちょっとくらいなら自分でなさい」
「するけどさー、ぼくじゃできない専門的な技術はやってもらうよ。ノボリはそういうの不器用だからねー。ぼく達つくづく正反対だよね、見た目こんな似てるのに」
「まあ、そうですね…事実ですので、何も言わないでおきます。クダリ、話は変わりますが、私夜出かけますので」
「あ、ぼくも出かけるよ」
「そうですか、ではいつも通り先に帰ったら鍵は開けておきましょう」
「うん、わかった!」
飲み終わったカップはノボリが片付けてくれた。けど、そのあとポケモン達をボールにしまって部屋に戻っちゃった。
うーん、ノボリ、不器用。
それは手先のことじゃなくて、性格的にも。
きっとお直し屋さんに何かしらの感情があるのかもね。自覚はないかもしれないけど。
ノボリはぼくにちょっとしたコンプレックスを持っている。中身は全然違うから、ノボリのできないことがぼくにできて、ぼくにできないことはノボリが出来る。それがノボリにとって気にしちゃうこと、なんだろうね。真面目だから、できないことがある自分が許せないみたい。完璧になる、なんてできないと分かっているけど、割り切れない。
しばらくお直し屋さんの話しない方がいいかも。
まったく、不器用な兄を持ってると大変だなあ。
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