「シュス、久しぶりだね」



 観念して出て行けば、いつも通りのマツバ。

 ああ、もう、緊張するなあ。なんでこんなに緊張するのかな。
 …まあ、約一ヶ月も会っていなければするのも当たり前か。そう、久々だから。仕方ない。



「……う、うん。最近、桟橋に来ないね」


「そうだねえ。仕事の方が忙しくて、ヤミラミには悪いけど、行けなかったんだよね」


「そう、なんだ」



 やっぱり、そういうことだったんだ。そうだよね。大人だもんね。そういう時もあるよね。

 マツバは笑っていた。さっきはとろん、と笑っていたけど、今は…口を手で覆って、目を細めて笑っていた。なんだろう、本当に笑っている、って感じがする。今までのは形、というか。癖、というか。そんな感じがしていた。

 なんだか、マツバに会う度に新しい発見があるなあ。
 マツバの目線が動く。何見てるのかな…あ、袋かな。


「あ、シュス、何買ってきたの」


「え、あ、服?」


「ふうん。シュスってだいたい長袖に長ズボン、って感じだよね。今日もあんまりいつもと代わり映えしないような…」


「う…そうだから、ちょっと華やかな服が欲しくなったの」


「そうなんだ。どんなの?」


「えーと、シフォンのチュニックと、ワンピースを買ったけど」


「なるほど。楽しみだね」



 にこり。
 ん?楽しみ? ……どういうこと…?



「ねえシュス、時間ある?」


「あ、うん、ちょっと位なら…」


「じゃあさ、スズネの小道に行かない?」


「へ? …でも、あそこ、一般人は入れなくなっちゃったんじゃないの?」


「うーん。そんなことないよ。今は入れるよ」


「そうなんだ、じゃあ、行きたい。でも、私ポケモン達にご飯あげなきゃだから、」


「ちょうどいいね。皆にあげるついでに、新しく買った服を着てきてよ。せっかく、思い出のある所に行くんだからさ。準備できたら、またここに来て。待っているから」



 で、今家にいる。
 え、と言っているうちに、マツバはペリッパーを勝手に出して、シュスを家に連れて行ってあげて、と言えば、ペリッパーは言う事を聞いてしまって、私の家まで飛んでくれてしまった。
 なんでペリッパー、言う事聞いちゃうの…。なんて思ったけど、この子は素直な子だから仕方ないかなあ。

 とりあえず、皆にご飯あげないと。全員ボールに出して、ご飯を用意。
 で、服を着替える。今日買った、シフォンのチュニックに、元々持っていたショートパンツを穿いて、お化粧、もともとしていたけど、お直しをする。髪の毛も整える。そして、一粒の真珠が輝く、細いゴールドチェーンのネックレスをする。うん、よし。

 ルナトーンを呼んで、出かけることを伝える。皆のことをよろしく。ごめんね、と言えば、ほおお、と鳴いて応えてくれた。

 三センチくらいのヒールがある、ウェッジソールのパンプスを穿く。
 ここからジムまで歩いて十分くらい。



 …私、なんでこんなにマツバの言いなりになってるのかなあ…。
 どうして。

 ううん、幼い頃に行ったきりのスズネの小道に行けるから。だから、嬉しくて、おしゃれなんかしちゃって。

 それだけ。こんなに心臓が早いのは、マツバなんかのせいじゃない。











「シュス」



 マツバは私を見つけると、にこ、と笑った。そうしてこちらに歩いてきて、私の目線に合わせるように屈んで、首を傾げた。
 恥ずかしくて、目線を逸らしてしまう。



「ねえ、覚えているかな。僕達、よく手を繋いでスズネの小道まで行っていたんだよ」



 マツバは、ごく自然に、それをすることが当たり前のように、私の手をとった。
 骨張った大きい手が、私の手をやんわりと握った。



「、あ」


「うん。じゃあ、行こうか。ああ、それと」

 やっぱり、女性、になっちゃったね。 …綺麗だよ。





 マツバは、あの頃とは違う、男の人になっていた。そのことを今、気付いてしまった。












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