照れているカスミちゃんをからかっていたら、注文したものが来た。ふっくら焼けていて、美味しそう。



「まったく、ほら、食べるわよ」


「うん!いただきます」



 四角く切ったバターをのせて、琥珀色のメイプルシロップを掛ける。食べやすい大きさにナイフとフォークを使って、切る。ふわふわ。それを刺して、口に。うん、美味しい。しつこくない甘さ。メイプルシロップの濃厚な香りが口に広がる。適度に空気が入っていて、べちゃっとしない。ふんわり。どうやって焼いているのかなあ。あー、幸せ。



「美味しいねえ、カスミちゃん」


「でしょ?」





 甘くて美味しいなんて、にんまりしちゃうなあ。
 パンケーキに夢中で、無言のままで食べてしまった。カスミちゃんは気にしてない様子。良かった。
 コーヒーも頂く。うん、苦すぎなくて、少し酸味もあって美味しい。



「美味しかった…ありがとう、カスミちゃん」


「どういたしまして。じゃあ、さっきのお返し」


「え?なになに?」


「シュスは最近どうなのよ?なんだか、綺麗になったように感じるんだけど」


「ええ?そうかなあ…最近はエンジュのジムリーダーに挑戦しようと暫くしてなかったバトルを始めようとしているくらいだけど」


「そうなの?…なんだつまんない。あ、でもエンジュのジムリーダーはかっこいいって聞くわ。それが目的とか?」


「え!そうなんだ…まあ、マツバかっこいいもんねえ。でも違うよ、バトルみてたらやりたくなっちゃっただけだよ」


「ん?マツバと知り合いなの?」


「うん。実は幼馴染みたいな感じなんだ。カスミちゃんも知り合い?」


「まあ、同じジムリーダーだし、顔見知りみたいな感じかな。ジムリーダーの集会みたいなのあるし。幼馴染って初めて聞くけど…」


「そうなんだ。あ、言ってなかったね。最近会って、思い出したんだ」


「へえ…それで、何もないの?」


「なんも…ないよ?」



 あ。
 カスミちゃんのせいで思い出してしまった。マツバ、前、私の頬を触ったんだ。気にしないように、と頭の奥底にしまっておいてたけど…。変にときどきする…。
 上手く言えたかな。でも、カスミちゃん、そういうの見逃さないからなあ。



「ふーん。そういうことにしといてあげるわ」



 ちょっと意地の悪い笑顔。やっぱり、ばれてた。







 カスミちゃんとのお話はとっても面白くて、色々考えさせられて。ためになった。
 今の彼氏に直してほしいところが結構あるけど、少しづつ直していくしかないのかな、とか。最近は骨のあるトレーナーが来ない、とか。レッドというカントーなら大体の人が知っている元チャンピオンみたいな人がまた来ないかな、とか。仕事に対するモチベーションの維持の仕方、とか。


 カフェでたっぷり語らった。そして、お互いのポケモンを見せ合おうということになった。マスターにごちそうさまをしたら、もしよかったらまた来てね、と言ってくれた。


 外に出る。近くに草むらがあったので、そこで見せ合う。コガネの街中で見せ合っても良かったけど、私の手持ちにブルンゲルがいる。ジョウドにいないポケモンだから、人が集まってきてしまう可能性がある。皆ポケモンが好きだから仕方ないけど、カスミちゃんがいるから、集まった人にばれたら大変だし、やめておく。


 やっぱりブルンゲルを見せたらカスミちゃんは興味津々で、名前は聞いたことがあるけど、と言ってまじまじ見ていた。ブルンゲルはちょっと照れていた。

 マリルリとパルシェンを出して、カスミちゃんを見る。二匹とも覚えていたみたいで、カスミちゃんに駆け寄っていた。旅のとき、色々お世話になったからなあ。

 カスミちゃん、今日はスターミーしか連れていなかったみたい。相変わらずで、元気そうだった。私のことを覚えていてくれたみたいで、覚えてる?と声を掛けたら、真ん中の宝石がちかちか点滅して返事をくれた。



 そして、カスミちゃんはポケモン達のコンディションや技構成も見てくれた。現役ジムリーダーに見てもらえるなんて、有難いなあ。

 アドバイスをもらって、新たな発見もあって、技構成が変わる。うん、これでよりマツバに勝てる、といいな。







「カスミちゃん、ありがとう」



 本当は泊まっていってほしかったけど、明日、お互い仕事。しょうがない。
 リニアのホームでお見送り。



「どういたしまして。あ、そうだ、ポケギア貸して」


「? うん」



 ポケギアを差し出す。カスミちゃんは高速でボタンを押し出した。
 すごいなあ、なんてあっけに取られていたら返された。



「私の番号入れておいたから、連絡ちょうだいよ?」


「…! うん、ありがとう!」



 思わず笑顔になる。それを見たカスミちゃんも、笑顔を返してくれた。

 あ、発車のベルが鳴った。リニアが出ちゃう。



「カスミちゃん、またね。連絡するね」


「うん!待ってる。じゃあ、またね」



 ああ、ちょっと今泣きそう。なんでだろう。寂しいのかなあ。
 カスミちゃんがリニアに入って、扉が閉まるまで手を振る。リニアは発車も結構早いから、電車のように、ああ、いっちゃうんだ、っていう余韻も無く、あっという間に行ってしまった。



 今日は本当に楽しかった。ありがとう、カスミちゃん。

 私も明日、仕事。もう夜になる。帰って、皆にご飯をあげて、明日に備えなければ。
 寂しいとか、楽しかったとか、こんな風に会えてお話できて嬉しかったとか、色々な感情が綯い交ぜになって、暫く突っ立ったままで居たかったけど、駅員さんに悪いし、周りの人にも迷惑掛かっちゃうし、無理矢理足を動かして駅を出た。

 …そうだ。家に帰る前に、寄らなきゃいけない所があった。





 ペリッパーに空を飛んでもらって、エンジュに到着。お礼を言えば、くあ、と可愛らしく返事をしてくれた。頭を撫でて、ボールにしまう。

 ここは、エンジュジムの前。ちょっと見てから、帰りたいと思った。
 もう皆の状態はバトルを十分に行なえる。だから、もうそろそろ挑戦してみたいと思う。今日、カスミちゃんに色々アドバイスをもらったし、彼女のためにも、負けられない。


 待っててマツバ、きっとマツバとなら楽しいバトルが出来ると思う。


 うん、よし。明日も頑張ろう。
 そう気合を入れて帰ろうとしたら、ジムの中から話し声がしてきた。だんだん近づいてくる…これ、マツバの声だ。

 なんだか顔を合わせるのが久々だからか、カスミちゃんの話があったからか、ちょっと恥ずかしくなって、ジムの前にある木々の合間に、とっさに隠れた。


 あ、やっぱりマツバだ。祈祷師さんと出てきた。ジム前で立ち止まって、お話している。
 …早く二人とも帰ってくれないかなあ。私が帰れなくなっちゃう。 
 なんて思っていたら祈祷師さんがマツバに会釈して帰っていく。よし、このままマツバも早く帰っていって…。



「シュス、そこにいるんだろう。ここから少し見えてるよ」



 …ばれてましたか。



 見やれば、マツバはとろん、と笑っていた。












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