仕事は忙しい時期に入った。そんな中でも、私は三十九番道路に足繁く通っていた。もちろん、皆を鍛えるため。
 仕事が終わって、明日に響かない程度に野生のポケモンとバトル。バトルの感覚を忘れないでほしいから、出来るだけ毎日通う。
 元々、マリルリとパルシェンは一緒に旅をしていたから、バトルの数は他の子より多い。経験豊富、ってことかなあ。何回かバトルをこなしていけば、感覚が戻ってきたみたいで、旅の頃の調子が出てきた。
 ブルンゲルとルナトーンは職場の高速船で出会った子達。元のトレーナーもあんまりバトルはさせなかったみたいで、バトルの感覚を掴むのにちょっと時間が掛かった。
 ペリッパーとトドクラーは皆が戦っているところを見ていた。けれど、ちょっとやってみたい、と思ったのか、何度かバトルに挑戦してくれた。やっぱり、二匹とも穏やかな性格だからか、本当にたまーに、だけど。

 たまの休日は皆のコンディションを見て、バトルしたり、技構成を考えてみたりして過ごす。
 そして、皆に好物の木の実をあげたりする。バトルって結構疲れるみたい。旅の頃、マリルリとパルシェンが木の実を見つけるたびにせがんでいて、あげたら嬉しそうに食べていたのを思い出して、息抜きになれば、とあげている。



 マツバに挑戦する、と決意してから早一月が経とうとしている。忙しいけど、充実している、と私は感じていた。

 不思議なことに、桟橋でヤミラミに水面をよく見せていたマツバに、会う日がなかった。



 マツバどうしたのかなあ。ジムの仕事が忙しいのかな。
 そんな風に、そのことに少し引っかかりを覚えつつ、仕事とバトルに勤しんでいた。







 今日は休日。皆ちょっと疲れている様子だったから、バトルはお休み。バトルの感覚も掴めて、調子も出てきているから大丈夫かな。

 私はコガネのデパートに来ていた。ここはポケモン用の道具以外にも人間用のものも売っていて、品揃えも良い。今回は食料と服を買いに来た。
 私も年頃。いつも露出ゼロの動きやすい格好をしているから、たまには可愛い服が着たい、と思うときがあるのです。お給料も出たし、いいよね。
 シフォンでできたフレアチュニック、小花柄が可愛いハイウエストのギャザーミニスカートワンピース。
 良い買い物が出来たなあ。ちょっとにまにましてしまう。
 だらしなく崩れた顔を直そうと頬を押さえていると、前から見知った顔が。こんなところにいるなんて珍しい。



「カスミちゃん」


「シュス!久々ね」



 私はカントーで旅をしていた。アサギシティから高速船に乗って、クチバシティに着いて、マチスさんに挑戦しようと思ったけどいあいぎりが出来なくて。手当たり次第にどうすればマチスさんに挑戦出来るか聞いて、ハナダシティのジムバッヂがあれば出来ると聞いて、カスミちゃんに会った。
 その時同じ水ポケモン使いだということで意気投合して、仲良くなった。

 本当に久々。会えて嬉しいなあ。



「カスミちゃん、こんな遠い所にわざわざ」


「コガネのデパートでしか買えないものがあってね、買いにきたの」


「欲しいものがあればこんなとこまで買いに来ちゃうなんて、カスミちゃんらしいなあ。変わってないね」



 お互い、笑い合う。カスミちゃんはいつでも元気で行動力があって、明るい。
 一緒にいると、私も元気になれる。



「シュス、時間ある?良かったらちょっと話そう」


「うん、あるよ。いっぱい話したいことがあるんだ。お話しよう」



 カスミちゃんは満面の笑みを見せてくれた。





 カスミちゃんはコガネのデパートから出て、歩いて五分くらいにあるカフェを案内してくれた。落ち着いた照明で、白い壁にダークブラウンのテーブルと椅子。床は木で出来てる。お客さんは二、三組居て、それぞれおじさんおばさん、若い女の子。カウンターを見れば、壮年の男性。微笑んでこちらを見て、いらっしゃいませ、と言ってくれた。あ、逆さに下がっているワイングラスが光を反射して綺麗だなあ。
 男性は何も言わず奥のテーブルに案内してくれた。柱があって、入り口から見えない位置にあった。わざわざこんな所を案内してくれるなんて、カスミちゃん、何度か来ているのかなあ。



「落ち着いていていいお店だねえ。行きつけ?」


「そうなの。マスターが気を利かせてくれて、いつもここに案内してくれるから落ち着いていられるの。食べ物も美味しいし。シュス、ここのパンケーキは美味しいのよ」


「じゃあ、頼もうかなあ。あと、コーヒーも飲みたい」


「分かったわ、マスター」



 さっきの壮年の男性を呼んで、注文してくれた。カスミちゃんはパンケーキとアイスティーを頼んでいた。ありがとう、と言うと、気にしないで、と言ってくれた。なんだか、大人になったなあ。



「シュス、最近どう?っていうか、どこに住んでるの?それともまだ旅を続けているの?」


「うーんとね、今は旅はやめて、アサギシティの高速船で色々お仕事してるよ。それで、エンジュシティに住んでる。私の故郷、なんだ」


「そうなの…良かった、元気そうで」


「うん!カスミちゃんも元気そうで良かった。カスミちゃんは今もジムリーダーだよね?」


「うん。現役よ。水ポケモン使いとして、頑張ってるわ」


「さすがカスミちゃんだなあ。それと、なんだか大人になったね、カスミちゃん。彼氏でもできたの?」


「え、うん、まあ、できた…かな?」


「えっ!おめでとう!カスミちゃん照れてる!かわいい!」


「う、うるさいなあ!もう!」



 わあ。素敵だなあ。カスミちゃん、明け透けで言いたいことは言っちゃう性格だから、中々彼氏が出来なくて悩んでいた時があったんだよねえ。良かった。













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