海ってあんまり好きじゃない。何故って生まれつき色素が薄い僕は、海に行くと水面の光の反射が体全体に染みて染みてしょうがないからだ。
 目はしぱしぱするし、しかも涙滲んでくるし、露出している顔や手なんかも赤くなっている気がする。
 どうしたんだい、僕を焦がす気かいこの海は。

「……」

 ヤミラミがいつの間にかモンスターボールから出ていて僕のパンツの裾を引っ張っている。彼は暗い所を好むが、なによりも輝くものが好きだ。


「ヤミラミ、欲しいのかい」

 きゅっと素早く僕の顔を見上げてきた。そうしてこくっとまた素早く頷く。この輝きは持ち歩けないよ。分かってくれるかな?
 彼はくれるのかな、と待ちわびているようだ。目、というか宝石は水面の反射だけでない輝きが見える。

「残念ながらこの輝きは駄目なんだ。でも、また来て見れるよ。それで満足してくれるかい?」

 少し固まって、ヤミラミは僕から目線を外して素早く水面を見た。
 何秒か経ってボールに勝手に入っていった。分かってくれたかな。

「ごめんね」

 ボールを一撫で。正直ここに来るのは億劫だけど、約束してしまったからには近々来なければ。

 さて、高速船はまだかな。













 海。私を語るには欠かせない存在。まだまだ若造の私だけど、二十数年生きてきて好きなものは分かった。海だ。
 少し肌が弱くて、長袖フルレングスパンツ日焼け止めは年中欠かせないけど、好き。本当、愛していると言えるかな。
 ここからどこにでも行ける気がしちゃう。まあ、空を飛ぶとかがあるけど、海の方がわくわくする。きっと、未開の場所とかがあるからかな。だって海は広いし深い。



「シュスちゃん、お疲れ様」



「あ、お疲れ様です。後の方が最後のお客様ですか」



「そう。よろしく!」



 お客様、こちらです、といつもながらガタイのいいリーファーさんが誘導している。彼は私が新人のときにお世話になったひと。上司みたいな感じ、かなあ。
 そうだ、お客様。あと五分くらいで高速船が出港してしまう。早くご案内せねば。
 …て、あれ。



「お客様、お待たせしました。船内はご自由にご覧ください。トレーナーの方が多くいらっしゃいますので、ご注意を。また、休憩できる場所があちらにございますのでこちらもご自由に」



 見たことある気がするな…ええと。でも、沢山の方を見送ってきたからなあ。金髪のこの青年。顔が整っておられる。落ち着いた雰囲気だなあ。こういうのがイケメンというやつかな。



「では、良い船旅を!」



「………あの」



おお、溜めたなあ。とても見てきている。



「はい、どうされましたか」



「………いやあ、すみません、なんでもないです?」



 語尾が上がったように聞こえたけども…どうしたのかな、このイケメン。





 私が勤めるアサギシティ高速船乗り場は、主にカントーのクチバシティまで運航している。高速船というのは、水面から少し浮いて動く。原理は私の頭では理解できなかった。けどその原理のおかげで、なんと、アサギシティからシロガネ山まで空を飛ぶと同じ時間でいける。つまり、とても早いってことだ。
 で、私は受付を済ませて船内にいらっしゃったお客様をご案内するのが主なお仕事。楽しい。様々な地方の人に会えるし、何より常に海が身近に感じられる。適職かなと勝手に思いながら働いている。
 ん、船が出港する時間かな。



『お待たせしました、船が出港します。』



 乗り場の出入り口が閉まる。ちゃんと閉まったか確認。よし、おっけい。
 あとは交代が来るまで見張りだ。

 む、さっきのイケメンが歩いている。どうしたのだろう。
 イケメンはこちらを見ると、あ、と言って歩いてきた。ん?迷ったのかな。私もイケメンに向かって歩く。



「お客様、どうされましたか」



「、やっぱり。シュス、でしょ?」



 え? どうして名前を?



「は、い…そうですけど。どこかでお会いしましたか?以前乗船されたとか?」



「ううん、僕が八つくらいの頃かなあ。スズの塔の近くでよく遊んだんだ。覚えてないかな」



 この間延びした喋り方、癖っ毛金髪、タレ目…



「あ まつ、ば?」



「!そうだよ、思い出してくれたんだね」



 久しぶり、と、とろんとした笑みを浮かべるマツバ。ああ、こんな笑い方をするやつだった。色々思い出してきた。



「久しぶり。元気そうだね。背もこんなに大きくなって!」



「うん、シュスと遊ばなくなってから急激に伸びてね。今はどこに住んでいるの」



「エンジュシティだよ。マツバはどこに住んでいるの?」



「僕もエンジュ。気がつかなかったなあ」



「ね! おっと、ごめん、仕事があった!もう行くね」



「あ、ごめんね仕事中に」



「大丈夫だよ、平気。マツバ、またね」



 マツバに背を向けて出入り口に向かう。交代の人が来ている。
 四、五歩歩いた所で後から「シュス」と声を掛けられた。マツバの声。振り向く。



「また、話そうね」



 そう言ったマツバの表情があの頃を思い出させて、幼い彼と重なった。私は笑って、もちろん、と答えた。
 心 が温かくなる。幼い頃の友人と再会できる経験なんて、私には出来ないと思っていたから、嬉しい。

 また、かあ。これからが楽しくなるといいかな?











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