私は、目を逸らすことが得意。今まで殆ど一人で生きてきたから、自分の守り方を知っている。
 どんなに好意を向けられても、本当に信用していいのかなんて、即座に分かるわけないし、分かってもだいたい信用できない、と感じるかな。あ、ポケモンは別。この子達は、私を信じて慕ってくれる。ポケモンは、人を疑うことを知らないから。だからこそ、トレーナーの質が問われるけど。

 信頼をすれば、信頼を返してくれるのはポケモンだけで、人はそうはいかない。
 それを常に思いながら、生きてきた。けど、他人は自分より優れているところがある。そういうところは見て、なるほどなあ、と勉強する。
 そんなのだから、今まで好きになった人はいない、かなあ。



 私は、冷めた人間。
 だけど。
 マツバに触られたり、話したり、一緒にいたりするだけで、温かい気持ちになる。泣きそうになる。ぶわ、と体は熱くなったりするんだ。
 こんなのになってしまう人は、今までいなかった。

 …好きだと自覚したのは、結構前だった。
 元々、幼い頃から気にはなっていた。一緒にいて変な気を使わず、苦痛じゃなかったから。
 再会して、男性になっていた。話してみたら、記憶の中の幼い頃のマツバと雰囲気が、根っこにあると思った。
 そんな気持ちだったからスキンシップをされれば、気持ちが揺らぐ。
 …でも、どうしてそんなことをするのかは、分からない。理由がわかるまで、目を逸らしておこうと思ったけど…出来なかったのかなあ、私。だって、こうして、向き合って認めてしまった、から。





 マツバに勝って、手にキスをされて、顔を一切見ずにジムを出た。きっと、ずっと笑っていたような気がする。
 だって、マツバに今日はもう帰るから!って言って、マツバの横を通り抜けようとしたら、こう、言っていた。



「楽しかったよ、ありがとう。また今度、スズネの小道に行こうね」



 そう言っていた。…声は、高揚しているのか、どこか弾んでいるように聞こえた。

 マツバの言葉を聞いて、少し固まったのがいけなかった。
 またね、と言いつつ髪の毛を梳かれた。その行為を脳が認識した途端、脊髄に走れ!といったみたいで、駆け出してしまった。まあ、そのまま暗闇に落ちてしまったけど。
 気がついたらジムの出入り口前に突っ立ってた。ちら、と遠くの方に見えるマツバに目を向ければ、口に手を当てて笑っていた様に見えた。



 なりふり構わずジムを出て、息を一つ吐く。うん、ちょっとは落ち着いた。そのおかげで私が今やるべきことが分かった。
 とりあえずポケモンセンターに行って、皆を回復しなきゃ。そしたら、木の実をあげよう。お祝いだ。





 ポケモンセンターで回復して、外に出て、三十九番道路に行く。
 ここなら皆全員を出しても迷惑が掛からない。今は連れ歩きとかが流行っているけど、あれは一匹だけしか出してない。六匹は流石に場所を弁えなきゃだめだ。

 モンスターボールをぽいぽい投げる。



「皆、お疲れさま!」



 ルリ!やら、ぼあー、やら、ほおお、やら。皆其々返事をくれた。
 本当にお疲れさま。そして、有難う。それぞれの頭を撫でる。トドクラーとペリッパーも付き合ってくれて有難う、と撫でる。嬉しそう。可愛い。



「お祝いに皆好きな木の実食べていいよ、はい」



 地面に布を敷いて、ごろごろ木の実を広げる。
 それを見た皆が息を呑むのが分かった。ふふふ、疲れた後に木の実は美味しいみたいだから、食べたくてしょうがないよね。

 木の実から一歩離れたら、皆がつがつ食べ始めた。必死だ。そんなに美味しいのかな、木の実。ちょっと食べてみようかな…いや、やっぱり止めておこう。人とは違う味覚してると思うし。

 はあ。
 マツバに勝ってしまった。なんだか色々あって、疲れた気がする。
 木があったから、そこに座って寄りかかる。皆美味しそうに食べてるなあ。良かった、勝てて。
 …本当に勝てたのかな。夢じゃないよね…うん、マツバの唇の感覚が、まだ残ってる。夢じゃ、ないか…。ああ、もう。

 そういえば、バッヂどんなのかな、ちゃんと見よ…う……って…あれ……。



「バッヂもらってない!!!」



 思わず立ち上がって、叫んだ…。
 大声過ぎたのか、皆が一斉にこっちを見た。…ごめんね、驚かせて。

 マリルリがどうしたの、と首を傾げて近付いてくる。
 うう、マリルリ。



「マリルリ…バッヂ貰い忘れた…」


「ルリ!?」



 すごく驚いてる。いやあ、驚くよねえ…。
 マリルリは驚いていたけど、段々呆れた顔をしてきた。うん、呆れるよねえ…。



「だ、大丈夫だよ。行けば貰えるから、さ。とりあえず疲れてるでしょ?木の実食べなよ。あ、皆もごめん!木の実食べてて大丈夫だよ!」


「リル…」



 溜息吐かれた。
 うう…不甲斐ない…。



 …まあ、とりあえず焦ったって仕方がない。
 木にまた座って寄りかかる。皆また食べて始めた。元気だなあ…。







「いたい…」



 …何か刺さってきた。何、いた、いたいよ…。
 目を開けて頬に刺さるものに触る…うーん、パルシェンだ。ちょっと怒った顔してる。どうしたのかな。あれ?



「…もしかして、寝てた?」



 こくん、と頷くパルシェン。…本当に?



「起こしてくれてありがとう…けどちょっと痛かったよ…て、もう暗くなってる」



 周りを見渡せば、夕方を過ぎて、暗くなっている。パルシェンの他に誰もいない。腰についているモンスターボールを触れば、かたかた揺れている。他の子達は入ってくれたみたい。で、私を一人にする訳にいかないから、パルシェンが出てくれてたんだ。



「ありがとう、パルシェン。皆もありがとう。ごめんね。ボール入る?」



 こくんと頷く。私のポケモン達は本当に優しい子達ばかりだ。

 ボールに入ってもらって、立ち上がる。うん、寝たから体もだるくない。むしろすっきりしている。
 お家に帰ろう、そう思って体を動かそうとするけど…思い出した。私、バッヂもらってなかったんだ。

 …一応、まだこのぐらいの時間ならジムは空いているはず。
 でも、急がないと閉まっちゃうかも。よし、行こう。





 ペリッパーにのせてもらって、エンジュジムに着く。お礼を言って、ボールに入ってもらう。
 うん、よかった。空いている。入り口にいるジムトレーナーさんに言えば、きっとどうにかしてもらえるだろう。

 そう思って扉を開けようとしたら、中から誰か出てきた…紫。あれ。



「シュス、バッヂ忘れていってるよ」



 バッヂを片手に、笑うマツバ。
 …どうして、マツバってこんなにタイミングがいいのかなあ…。












「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -