命中率を上げる何かでも持っているのかなあ。なんでこんなにもさいみんじゅつが当たってしまうの。
二回連続で出したさいみんじゅつは、カゴの実を消費してルナトーンを眠らせる。めいそうで上がった能力をもってしてでも、ゴーストは倒れてくれなかった。
空を食べるようなしぐさ。その口に入っていく、黒い靄。ゆめくいをしてくる。ゴーストの体力が回復する。だめだ、交代しよう。
「ルナトーン、戻って!ブルンゲル、行って!」
「ゲンガー、行って。シャドーボール」
交代を読まれている!
だからといって、ルナトーンに戻しても…。このまま突っ切る。シャドーボールを指示。けれど、先に動くのはゲンガー。小さい手を上げて、その指先が紫色に歪む。
ゲンガーのシャドーボールが当たる。ブルンゲルは衝撃で地面に叩きつけられてしまったけど、耐えて…くれた!けれど、ゲンガーのシャドーボールの威力が高過ぎる!
ふわ、と宙に浮くけれど、ひらひら、ふらふらしている。
「ブルンゲル!じこさいせい!」
「させない、シャドーボール、!」
シャドーボールが当たってしまった。間に合わなかった…。ブルンゲルは倒れた。またも、私の判断ミス。ごめんね、ブルンゲル。
ゲンガーは体を一度大きく震わせ、赤い鋭い目をぎゅ、と瞑った。ぱりぱり、と音が続いて、ぶわ、とゲンガーの体の所々が逆立つ。かなしばりだ!
ブルンゲルはシャドーボールを特性で封じてくれた。
あと、マツバは二体。私はマリルリと傷と状態異常を負っているルナトーンだけ。絶対に勝ちたい。
モンスターボールを投げる。出てきたマリルリは地団駄を踏んでやる気満々だ。
「マリルリ、お願い!れいとうビーム!」
「ゲンガー、ふいうち」
マリルリはそんなものでは倒れない。息を大きく吸って、吐き出したれいとうビームは、ゲンガーに当たると体に纏わり付いてこおり状態にした。
運が向いてきている。思わず笑みが零れるのを感じる。
「よし、たきのぼり!」
マリルリの体に水がまとわり付く。そのまま勢いよくゲンガーにぶつかっていく。特性ちからもちも相まって、高威力になり、ゲンガーが体に付いた氷の破片を散らしながら数メートル吹き飛んだ。
そのまま目を回したゲンガー。戦闘不能。
「よし、マリルリ!頑張って!」
「ルリ!」
あとゴーストだけ…もう少し、だ。もう少しで、マツバに勝てる。
いや、油断しないで、やらなければ。ここまで特訓に付き合ってくれた皆に申し訳ない。勝たなければ。
マツバは、俯いてゴーストが入っているであろうモンスターボールを取り出す。じっとそれを見つめて、ゆっくり、顔を上げた。
目が輝いている。爛々、という感じ。
私を見つめたまま、口角を徐々に、上げていく。そうして、ぱくぱく、と口を動かした。なんて、言っているんだろう。
…シュス、かなあ?…私の、名前を呼んでいるのかな。
そんなことに呆気にとられていたら、マツバは笑顔のままモンスターボールを投げた。
は、とする。気を引き締めて、ラストスパートだ。
「ゴースト、行って」
「…!? マリルリ、見ないで、いばって!!」
目が赤くなったから、さいみんじゅつだ。マリルリは指示通り胸を張って、いばってくれた。ゴーストは目を回した…よし、混乱した!
指示がなかったから、何がくるかと思ったら…。私の指示が後少しでも遅れていたら眠ってしまっていたと思う。ここで喜ばないで、続けて攻撃。
「マリルリ、たきのぼり!」
水を体に纏わせ、ぶつかっていく。
数メートル吹っ飛ばされたゴーストは、起き上がってマリルリの方ではなくて見当違いな所を見ている。混乱しているんだ、ここしかない。きっと、最初にする行動がさいみんじゅつだから、それをしないと攻撃が出来ない技構成なんだろう。
ゴーストタイプは状態異常からの攻撃が多い、とカスミちゃんから聞いて、ちょうはつを入れようとしたけど。ちょうはつを選ばなかったのは、単に覚えられなかったから。カスミちゃんにアドバイスをもらって、いばるを覚えてもらった。
もう少し。
「もう一回、たきのぼり!!」
決まった。これで、勝ちだ。ゴーストが吹っ飛ばされて目を回した。
マツバは、にこりと笑っている。
「そこまで」
低く、通った声。
細いけど、意外とがっしりしている腕を片方上げて、口を開けた。
「シュス、君の勝ちだ」
ああ、良かった。私の顔を見て、マツバは腕を下げた。
咄嗟にかがんでマリルリを抱きしめた。マリルリはちょっと驚いたみたいだけど、ルリリ、と言いつつ小さいその手で抱き返してくれた。
ルリリ、なんて。初めて会って、捕まってくれた頃の鳴き方だ。甘えてるのかなあ。可愛い。
他の皆もありがとう。モンスターボールを一つ一つ撫でる。かたかたと揺れて答えてくれた。早く回復してあげるからね。
「おめでとう。結構ブランクがあったと思うけど、よくここまで皆を調整したね」
「うん、ありがとう…。アドバイスとかもらって、皆がいてくれたからここまでこれたんだ」
「そっか。…ねえ、シュス。楽しかったよ。ありがとう」
「あ、良かった。楽しんでくれて。私も楽しかった、ありがとう…」
すっと差し出された手。私も反射的に差し出して、握手。
やっぱり骨ばって大きい手。私、さっきまで興奮していたから、汗ばんでないかな…大丈夫かなあ。
「じゃあ、お礼に」
「へ…」
握られたままの手は、マツバの手に掬い上げられるようにして、そのまま彼の顔に近づいて…。
押し付けられるだけの、手の甲へのキス。たっぷり時間を取って、離れた。
私の口が、あ、と言う形で開いているのが分かる。それに気付いて、口を閉じる。そうして下を向く。
マツバ、マツバ。どうしてこんなことをするのかなあ。
「ねえ、シュス、こっち向いて」
「…今は、ダメ」
ふふ、とマツバが笑ったのが分かった。私の手に息が掛かったから。
体が固まっている。背中につ、と汗が流れるのが分かる。顔が熱い。マツバが見れない。
マツバは空いている片方の手で、握られたままの私の手にそえる。つつ、と撫でて、もう一度唇を押し付けられた。
胸が苦しい。
視界が歪む。涙が零れそう。堪える。
…分かっていた。私、マツバのことが、好きになっているって。
目を逸らして、自分に違うと言い聞かせて。でも。
嫌じゃないんだ、こういう風に触られて。触れられたそこから、じわじわ熱が全身に渡って、心臓がどくどくいって。
あ、また、笑った。
「待っていたよ」
あの時の言葉は、今の私に言っていたんだね。きっとその深い紫色の瞳をとろんとさせて言っているんだろうな、と想像しながら思った。
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