今日こそだと思った。マツバに挑戦する日は。
皆の調子も良いし、私自身の調子も良い。
正直言って、怖い。今日一日で、がらりと様々なことが変わると思うから。
でも、立ち向かっていかなければならないとも、思う。
「…マリルリ、パルシェン。今日、挑戦しようと思うの。どうかなあ」
「ルリッ!」
「……」
小さい手を思いっきり上げて、目が笑う。パルシェンも頷いてくれる。うん、行こう!と言っている。
ポケモンみんな大切な存在だけど、マリルリとパルシェンは特別。一緒に居た時間がどの子よりも長い。何かあると、頼りにしてしまう。
うん。よし。頑張ろう。
ジムトレーナーさんに申し出る。
挑戦したいです、と言えば、ああ、あの時の方ですね、待っていました、と言われてしまった。覚えられていたんだ…あの時はすみません、と一言謝っておいた。
エンジュジムの仕掛けは中々凝っている。
暗闇の中、ぽつぽつと点いている灯篭。祈祷師さん達が、その隣で突っ立っている。さすがゴーストタイプのジム、というか。雰囲気はバッチリ過ぎるなあ。
一通り見てみる。祈祷師さんの数は…四人。この人たちをこちらの被害を最小に抑えて、倒して、マツバに挑まなければならない。
腕が鳴る。迅速に、マツバに辿り着いてやる。
「こんにちは、シュス」
「…挑戦者への挨拶は、それでいいのかなあ…」
「うん、僕がかけたい言葉をかけるだけだからね」
とろん、とマツバは相変わらず笑う。けれど、うずうずしているのが伝わってくる。早く戦いたい、と思ってくれているのかなあ。
私が祈祷師さん達を倒しているのは遠目に見ている筈だから、マツバのお眼鏡に適ったのかな。
「ねえ、シュス。さっそく始めよう。そのためにポケモン達を鍛えてきたんだろう」
「…うん。そうだね。私のバトルを見てほしい」
「うん」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
お互い、薄ら笑いを浮かべた。
「パルシェン!なみのり!」
「ゴース、さいみんじゅつ」
あちらの方が早い…。まあ、あちらの手持ちのほうが私の手持ちより素早さが上回っている。その鋭い目から放たれたさいみんじゅつは効いてしまった。でも、対策は済んでいる。カスミちゃんのおかげ。カゴの実を持たせてあるから、大丈夫。
パルシェンは寝入る前にカゴの実を食べて、地面から湧き出る水を操って、なみのりを発動させた。
マツバは驚いた、のかな。少し目を見開いたように見える。余所見している場合ではない。なみのりは、ゴースに当たった。水圧で動けないみたい。
「パルシェン、続けてシェルブレード!」
攻撃を受けて、体勢を整えているゴースに貝から生えているツノで斜めにシェルブレードを斬りつけ、当たった…と、思ったけど、掠っただけ。
あちらの攻撃がくる。
「くろいまなざし、そしてのろい」
淡々とした、マツバの声。
赤くなったゴースの目。その目を見たパルシェンは囚われてしまった。これで、逃げられない。体が一瞬言うことを聞かなくなった隙をつかれ、立て続けに黒い靄に囲まれてしまう。のろいだ。
あちらが倒れるかこちらが倒れるまで他の子に変えられない。でも、これも予測済み。
自らの体力を削ったゴースはもう虫の息。パルシェンもじき倒れてしまう。
「パルシェン、シェルブレード!」
命令通り技を出してくれる。早くゴースを倒してくろいまなざしから逃れたいけど…よし、シェルブレードが当たった!
けれど倒れる間際、ゴースはさいみんじゅつを繰り出してきた。目を合わせてしまい、当たってしまう。マツバの指示がなかったのに…経験の差、かなあ。命じられなくても状況に応じて、ある程度自分で行動できてしまうんだ…。手強い。
「ふふ、ごめんね。ゴースト、出番だよ」
続いてゴーストが出てくる。
カゴの実を持っていないパルシェンをこのままにしていても、眠り続けてしまったらのろいで倒れてしまう。交代はなるべく眠りの状態ではしたくないけど…。ほんの少し様子を見ようか。
「パルシェン、起きて!!なみのり!」
「させない。くろいまなざし」
また、赤い目に囚われた。ああ、さっきすぐ交代しておけば良かった…一つのミスが次のミスを招く。悔しい。
「ナイトヘッド」
「起きて!」
だめだ、起きない。のろいもじわじわパルシェンを蝕んでいく。ゴーストの手から放たれた黒い念波、ナイトヘッドも一定のダメージしか与えられないからこそ、今の場面では活きてくる。
それに囲まれて顔をしかめたままパルシェンが倒れた。ごめんね、私の判断ミスだ。モンスターボールに戻す。
「…ルナトーン、行って!」
ゴーストタイプに強くもあり、弱くもあるけど、きっと活躍してくれる。
やってもらうことは一つ。
「さいみんじゅつ!」
「ふいうち…っ避けろ、ゴースト!」
避けきれず、その不思議な瞳から波出たさいみんじゅつは当たる。バトルが始まって初めてマツバは声を荒げた。そんな場合では無いけど、嬉しい、と感じてしまう。だって、本気になってくれているから。
畳み掛けてあげる。
「ルナトーン、めいそう!」
「……」
ルナトーンの体から薄っすら輝く。めいそう成功。
マツバは鋭い視線をゴーストに送ったまま固まっている。
何かを考えている。でも、私に出来るのはさっさとゴーストを倒すこと。タイプ一致の強力なサイコキネシスを繰り出す。難なく、ゴーストは倒れた。
マツバは鋭い目線のまま、倒れたゴーストをボールにしまい、次のポケモンを出す。別個体のゴーストだ。
「効くまでさいみんじゅつ」
なんていう、指示なの。
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