!愛の方向が微妙に間違っているアニクダと臆病な夢主。






 本当に、このままでいいの。
 そう問うたツバキは震えていて、気の小さい彼女がいかに必死になって搾り出したかが伝わった。ちら、と見やれば、ほら、やっぱり。ぶつかった視線から逃れようと下を向いた。一瞬見えたその瞳は緊張からか潤んでいた。唇もぎゅ、と噛みしめられていた。ああ、そんなに噛みしめてしまうと痕がついちゃう。何事にも臆病なきみが自分自身を痛めつけるなんて。

 初めてのことなのだろう。他人に自分の意見を推しつけるのは。

 僕は笑みを浮かべて返事をする。



「何故きみにそこまで言われなきゃならないのか」



 彼女の体がびく、と震えた。顔はまだ下を向いたままだ。
 僕は続ける。



「きみが意見を推し付けるようなひとには思えなかったよ…正直、迷惑だ」



 ねえ。気付いてくれるかな。この罵りは僕からの愛だって。だってツバキ、他人との関わりを極力控えてきたきみが僕のために瞳を潤ませ唇を噛みしめて言葉をくれるなんて。
僕は嬉しい。嬉しいけど、この感情を伝えるにはまだまだだ。



「なんとか言ってほしいものだけど」



 下を向いている彼女は泣いている。見なくとも分かる。

 これ以上言葉を投げかけてしまうといけないだろうか。ツバキが喋るまで待とうか。なんて考えていれば、ツバキはぐっと顔を持ち上げて、涙で濡れている、初めて見た瞳で真っ直ぐ僕を見やった。



「こ、これだけは言わせて。迷惑でも構わない。私、あなたがこのままの道に進んだら必
ずあなたは後悔すると思う。きっと、こんな私からの意見だなんて、道に落ちている塵のように思えるかもしれない。でも、でも…こんな私と一緒の時間を過ごしてくれた、優しいあなたが道を誤るなんて、そんな理不尽なこと、ない。だから、もう一度考えてみてほしいの、このままでいいのかって…」



 声はやっぱり、震えていた。体もやっぱり、震えていた。けれど、瞳におどおどとした印象はなかった。凛々しい、ツバキがいた。

 僕は目線だけ下に向けた。充分に時間を取って、目を瞑る。ツバキの言葉に絆されている様に演じなければならない。目を開き、ツバキの瞳を一瞬見て、顔を下に向けて一言。



「そこまで、僕のことを」



 顔を上げて、目線を合わせる。



「…ありがとう。とても、嬉しい。…考えていくよ、きみと共に。良いかな」



 ふと、笑う。体から余分な力が抜けて、安心したように。ツバキも僕の様子を見て、儚げに、けれど安心したように笑って、頷いてくれた。



「けど、そんな自分を卑下しなくても…きみは素直になれば、もっと輝けると思うけどな」



 面食らったようにツバキは驚いて、僕を見て、手をそっと重ねてくれた。

「…ありがとう、クダリくん」



 …きみのこと、ここまで見ている僕は良い恋人になれているだろうか。







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