!阿呆な夢主に振り回されるノボリさん。
!脱帽。
執務室に入ったらノボリさんがいた。珍しく制帽を取っている。おおっと、挨拶挨拶。
「お疲れ様です、ノボリさん」
「ええ、ご苦労様です」
上司であるノボリさんはいつも身だしなみも仕事も立ち居振る舞いもきちんとしているけど、今日はなんだか違った。制帽取っているとかじゃなくて、疲れているのか分からないけど、なんだか違うなんだろう。
「ノボリさん、お疲れですか」
「いいえ、疲れてなど。年末年始のラッシュは終わり、後始末もあらかた済みましたしね。ツバキ様こそお疲れではないですか」
「いやあ、私なんて下っ端よりノボリさんの方が数倍お忙しいでしょう」
「そんなことはございませんよ」
いつもへの字口で無表情な私の上司だけど、ほんの少し口角を上げて笑うこともある。今とかね。皆ちゃんと見ればいいのに。ちゃんと見ないで無表情で怖いとか言うのはいけないよね。よくいるけど。
でもほんとになんだか違う。なんだろう…うーん。
あ、わかった!
「ノボリさん、ちょっと失礼しますねー」
「は、い?どうされました…か」
髪の毛が少し乱れてたんだ。私は、背伸びして目一杯腕を伸ばして髪を撫で付けた。ノボリさん背高いんだ。私と三十センチくらい違う。
ノボリさんをこんなに間近で見たのは初めてだ。だって、あとちょっとでノボリさんの白くてキレーな首筋と私の唇が届きそう。あ、ごくん、と喉仏が上下に動いた。
見上げれば、ノボリさんが固まっていた。近すぎたかな。
「すみません、近かったですね」
「い、いえ。髪、申し訳ございません。ありがとうございます」
ぱ、と離れる。首筋からは清潔そうな良い匂いがした。うーん。流石だなあ。私も負けてられないな。
失礼しました、と部屋から出ようとすると、後から肩に手を置かれた。ちら、と肩越しに見る。
「どうしました、ノボリさん?」
「貴方様も、ほら」
「あ」
肩に置かれた手が離れて、す、と髪を手櫛で梳かれた。ちょっと、どきどきする。
二、三度梳かれた。やっと恥ずかしさから開放される、と思って後に向こうとする前に、髪を掻き分けて、項と首筋を撫でられた。
「あっ、ノボリさん!」
勢い良く後を向けば彼は目を少し見開いて、乱れておりましたので、失礼しました、と呟いた。
「もう、驚きましたよ。お先失礼しますね」
「…はい、明日もまたよろしくお願い致します」
あーびっくりした。
そういえば、ノボリさん手袋じゃなくて素手だったな…。
ノボリさんって勝手ながら手とか冷たいイメージがあったけど、そんなに冷たくなかった。むしろ、熱かった…。
思い返すと何だか恥ずかしかったなあ。
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