!好きゆえに意地悪なクダリとちょっと素直になりきれない夢主。
!長く付き合っている二人。








 あ、こんな時間。最近買った細いシルバーのチェーンとシンプルで見やすい文字盤がお気に入りの腕時計を見やれば、十一時半を指している。
 今日は日付が変わる前には家に着きたい!と思って、手早く仕事を終わらせたつもりだったけど、上手くいったみたい。

 バッグから家の鍵を出して、開ける。と、玄関を見れば、白い革靴。

 この靴を履く人を私は一人しか知らないし、合鍵渡しているのも一人しか知らない。居る、のかな。その割には…ずいぶん静か。こういう時、扉の開く音で気付いて、ここまで走ってきて、何とか言いながら飛びついて来そうなのに。



「ただいまー」



 …静か。まさか、驚かせようとしてる?でもな。驚かせるなら靴まで隠すと思うな、あいつなら。で、自分の居た痕跡を完璧に近い状態で消すと思う。うん。

 とりあえず、リビングに行ってみよう。



「……やっぱり」



 クダリがソファの上で寝てた。でも、うちのソファ二人がけ用だから、長身のクダリにはきつそう。手足を縮こませて寝ていた。
 大の字で寝ることが好きな彼にとって、苦痛でしょうがないと思うけど、安らかに寝ている。疲れていたのかな。早く仕事を終わらせて、驚かそう!と思って私の部屋に入って、色々どうしようか、と考えているうちに寝ちゃったのかな。

 想像して笑ってしまった。多分、これで合っていると思う。



「…クダリ。帰ったよー…」



 反応なし。
 まあ、小声で呼んだんだけどね。だって、無防備に寝ているクダリを見れるなんてレアだ。ちょっといたずら心が湧いてきちゃって、遊んでやろうと思ってしまった。

 床に座って、こちら側に身体と顔を向けているクダリに近づいて見てみる。
 ほんの少し口を開けていて、可愛い。あー、やっぱりクダリ睫毛長い。鼻高い。白い肌もあの激務に堪えてないようで、つやつや。綺麗。うーん、整っている。
 顔だけ見れば可愛い部類なのに(ただしバトル中の顔は除く。目が爛々としてるのに瞳孔開きぎみで、口角がいつもより上がっている。めちゃくちゃ怖い顔してる)長身で男らしい身体している。

 白いカッターシャツに白いスラックス、ベルト、ネクタイ。それらの上からでも分かる引き締まった身体。うん、我が彼氏ながらいい男だ。

 あ、ネクタイしたままだ。ベルトも窮屈なんじゃないかな。昔、ベルトしたまま寝ちゃったことあるけど、腰骨に当たって赤くなって、痛い思いをしたことがあるんだよね。



 ……外してあげよう。



「…クダリー、外すからねー…」



 一応声は掛けた。小声だけど。
 ネクタイの結び目に指を引っ掛けて、左右に振りながら引っ張る。クダリの見様見真似だけど、解れるかな…あ、大丈夫そう。しゅる、とネクタイは解けた。
 ん、とクダリは少し身を捩ったけど、起きる様子なし。

 …と、いうか、ちょっと恥ずかしいな、この動作。ネクタイを外してあげる、って。



 いや、何を考えているんだ、私!
 下心なんて無い、無い……シャツ、一番上までちゃんとボタンしていて、きつそう。外してあげよう…。

 ぷつ、ぷつ、と一番上とその下のボタンを外してあげる…。
 日の出ている時間は地上にあまり出ない、なおかつ露出してないクダリの特に白い、しかも意外と骨張っている鎖骨と喉仏が見えてしまう。う、うん。ちょっと、これは。



 違う違う。寝苦しかったら嫌だもんね、うん。そのため。
 じゃ、ベルトを外してあげよう…。
 ベルトの先端を押して、バックルからベルトを外して、スラックスのベルト通しからも外す。
 クダリ、何でこんなタイプのベルトしてるの。カチャカチャいってなんか恥ずかしい。



 まあ、とにかく、クダリはこれで楽になったと思う。
 外したネクタイとベルトはハンガーに引っ掛けておこう。
 ハンガーはあっちの部屋にある。



 ハンガーに掛けて、リビングに戻ったらクダリが起きていた。少し動揺してしまう。



「、あ、起きたんだ。おはよう」


「うん、おはよー」



 にへら、とクダリは笑った。力抜けちゃう。
 でも、このタイミングで起きるのはおかしい…。



「…クダリ、起きてた?」


「うん!」



 満面の笑み。やっぱり。こいつ、楽しんでたな。



「ちなみにツバキが玄関開けた時から起きてたよー」


「……まったく。意地悪」


「へへ、いいでしょ?ツバキも楽しかったでしょ?」


「…だって、会うの久々だし」


「うん」



 クダリは本当に意地悪。もう、慣れたけどさ。
 ソファに近づいて、クダリの隣に座る。見やれば、いつも通りの笑顔。首を傾けて、クダリの肩に預ける。クダリは、頭を撫でてくれた。



「もう日付変わったね」


「うん」


「誕生日おめでとう」


「…うん」





 子供っぽい面もあるし、意地悪だったりするけど、忙しい合間を縫って、こうして誕生日を祝ってくれるクダリ。
 暗黙の了解みたいになっていて、毎年行なわれるこの行事。
 なんだかくすぐったい。

 恥ずかしくて、きちんとまだ言ったこと無いけど、いつか言ってあげる。
 だから、今は心の中で許してね。











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