彼のことを少しは知っていたと思っていたけど。まさかここまで恥ずかしがり屋だとは思わなかった。



「………ノボリさん」


「………少々時間をくださいまし……」



 両手で顔を覆って下を向いたまま、こちらを一切見てくれない。
 …想いが通じ合って、もっとノボリさんのことを知ることができる、とわくわくして。お互い思うことを話し合って。私たちなりに進んでいこう、となって。
 そんなことを経て、次会った時何をお話しようかな、と考えていた。でも、中々来てくれなくて。忙しくて来られないのかな、ギアステーションに伺っちゃおうかな…なんて不安になってきた頃。ノボリさんは来てくれた。けど、一度も目を合わせてくれなくて、いつものテーブルに座ると、両手で顔を覆ってしまった。
 …耳真っ赤。恥ずかしいのは分かるけど、原因が分からない…。お付き合いしましょう、と決心したら恥ずかしくなっちゃったのかな。

 このままだと時間が来て、ノボリさんはお仕事に戻らなきゃいけなくなる。わざわざ来てもらって、お茶もお出ししていないし、ちゃんとお話してないし。ノボリさんと一緒にいるなら、ノボリさんのこと少しでも知りたい。

 シキジカは顔を覆うノボリさんのことを、不思議そうに首を傾げて見上げている。
 さて、どうしようかな。ねえ、シキジカ。



「…ノボリさん。ちょっとでもいいから、お話したいです」


「………はい…」



 返事をくれたけど、顔はまだ覆ったままだ。
 もう。そんな長身をちぢこませてないでお話しましょう、ノボリさん。

 ちょっとこの状態のノボリさん可愛いかも、と思っていたら、シキジカがノボリさんの足を鼻先で突き始めた。
 びくっ、と大きく体を震わせたノボリさん。私が驚いた。
 下を向いたまま、顔から手を外して足を見やる。シキジカがノボリさんを見上げているから、目線がかち合う。たっぷり十秒くらい時間をとって、見つめあう。
 ノボリさんが頷いて、顔をゆっくり上げた。わ。真っ赤だ。目線は合わせてくれないな。



「……申し訳ございません。時間をわざわざ割いてくださっているのに、このような有様で…」


「いえ。ノボリさん恥ずかしがり屋ですし。ただ、どうしてそんなに恥ずかしいのかは知りたいな、と思いますけど」


「…はい。ええと…きちんと、こうして向かい合って、お話できることが嬉しくて…。その、こういった関係になれたことも嬉しくて。けれど、ああしてお話は致しましたが、どういう顔をして貴女様に会えば良いのか分からなくて…」


「…ノボリさん、乙女…」


「分かっております…。男らしくはないとは分かっております…」



 ノボリさんって、分かっていたけどギャップの塊だな、と思った。澄ましていれば何事も落ち着いてできる人に見えるのだけど。
 やっぱり私はギャップに弱い。うん。



「だから来られるのも間が開いたのですね」


「はい…。会いたいとは思っておりましたが会いに行けず…。けれど、会って顔を合わせればきっと分かると、散々思いつめて今日伺いました」



 …正直微笑ましくて、笑顔になってしまう。可愛い。



「ノボリさん。私たちなりに進もうって言ったじゃないですか。そんなに思いつめてくれたのは、私を考えてくれたということだと、思います。それは嬉しい。けど、考えすぎても動けなくなってしまうと思います」



 こくこく頷いてくれるノボリさん。素直。



「そんなに無理しないでください。素直が一番です。私、ノボリさんのこと好きです。だから、ノボリさんのこと知りたいです。だから、色々教えてください。どんなことでもいいです」



 こうして、特別な関係になれたから、こういうことを言っても…いい、と思う。
 ノボリさんが顔を上げてこちらを見てくれた。まだ赤いけど、ちょっと収まってきたように見える。
 やっぱり、目と目を合わせてお話しないと。安心できる。私とお話してくれている、と実感できて。



「………素直に申し上げますと、どういう顔をしていいのか分からない、というのは理由がございまして…」


「教えてください」


「……また、抱きしめても、良いでしょうか…」


「…えっ」



 そうくるとは思わなかった。
 …でも、なるほど。恥ずかしがっているのはそういう理由だったのか。けど、そういうことなら、お安い御用。



「や、やっぱり忘れてください、先ほどの言葉を…」


「いえ、ノボリさん。構いません。じゃあ、前はノボリさんが抱きしめてくださったので、私からさせてください」


「…へっ?」



 ぽかん、としているノボリさんに構わず、椅子から立ち上がってノボリさんに近付く。
 ノボリさん、座っているから私が下に見やる形になる。新鮮だな。そして、何も声を掛けずいきなり腕を首に回して抱きしめた。
 ぴく、と震えたのが伝わる。体に力が入っていて、緊張している。

 ああ、安心する。安らぐ。
 目を閉じて抱きしめていると、ノボリさんが急に立ち上がった。驚いて手を離してしまって、動揺しているとノボリさんの腕が私のウエストに回った。
 私も、真似して。ノボリさんの背中に手を沿えた。
 抱き合う形に、なった。



「…ふふ。ノボリさん…」


「……すみません、貴女様の温もりが、とても欲しくて。とても、安心できて」


「いいですよ、ノボリさん。私も安心します。遠慮しないで、いつでもいいですよ。したい時にしてください」


「ナマエ、様」



 今日初めて名前を呼んでくださいましたね、ノボリさん。

 温もりを受け入れて、うっとりしていると足元に突かれる違和感。下を見ると、シキジカ。あ、分かった。シキジカもしてほしいみたい。
 顔を上げて、ノボリさんを見る。思った以上に近くて、どきりとする。



「ノボリさん、すみません。シキジカも抱きしめてほしいみたいです」


「おや、それは。もちろん」



 ぱ、と離れた。二人でしゃがんで、目を合わせる。
 言葉は一切交わさなかったけど…同じことを私たちはした。シキジカの首に手を回して私たちで挟むように、抱きしめあった。



「あ、シキジカ喜んでる」


「…良かった」



 短い尻尾をぴくぴく震わせて、喜ぶシキジカ。見えないけどきっと、笑ってくれていると思う。

 幸せだな…。





「なんだか、シキジカが子供みたいですね」


「!?」








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