3
「柊〜!」
数分と待たずに、空はここへ来た。
近くにいたのだろうか。
あとげなさの残った、少年のような顔で嬉しそうに笑い、赤茶けた髪をゆらしながら空はこっちへ近付いてきた。
向かいの席に座るのかと思っていたのだが、ぼくの座っている席まで来て、思いっきり僕を抱きしめた。
「んふふ〜柊のにおーい!」
いや、どう考えてもラブホの安っぽいシャンプーの匂いだろう。
にまにまと笑うさまは、変態にしか見えないのだけれど、この抱きつき癖は何度言っても治らない。
満足したのか、ぼくの髪をふわふわと撫でると空は向かいの席に座った。
「また浮気したなぁ〜?」
けらけらと空は笑う。
「したしたー」
ぼくも合わせて笑う。
馬鹿みたいだ。
「ずりぃー!俺、ここ一週間は浮気してねぇぞ!?お前今日の飯おごりなー!」
不満そうに頬を膨らませるが、全く可愛くない。
少年らしさは残っているが、かっこいい部類に属する顔立ちをだらしなく緩めて、空は笑う。
「いーよ、さっきの人にいっぱいもらったし。」
何がいい?と聞いて席を立つ。
いつものー!と空は元気に返事した。
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