-1-
鬱蒼とした森の中、埋もれるように存在する木漏れ日の元で妖怪は真新しい本を読んでいた。
森には木々を揺らす風の音、葉の音、そうして遠くの湖で妖精が遊んでいる音が微かにこだましているのみだった。
突然、爆発音がした。妖怪は少し驚いたのか葉の間に僅かに見える青空に目をやる。
目を細めるが、その小さな隙間からは何も見えやしない。
「霊夢……?」
またあの厄介事好きな巫女だろう。本人は異変だ怪異だ、解決しなければならないなど、博霊の巫女故の正義からだろうが、関係ない傍観者にとってはただの厄介好きだ。
それでいて普段は暇だと言っては仕事もろくにしないものだから、もはやただの暇潰しと金稼ぎである。
ひとつ、大きな風が吹いた。不意をつかれた妖怪は反応出来ず、頁が捲れていく様子を眺めるしかなかった。
「朱鷺子ーー!」
人一倍大きな声で妖怪を呼ぶ声がする。振り替えるとえんじ色のハイカラなワンピースを来た雀が駆け寄ってきた。
雀は勢いよく妖怪に飛び付くと矢継ぎ早に話し出す。
「朱鷺子、早くしないと霊夢に見つかっちゃうよ。香霖も言ってたでしょ。花が増えてるって。それで霊夢が気が立ってて誰彼構わずやられてる」
心無しか震えてる肩をそっと抱き締めてやる。遠くで聞こえてた爆発音も湖の音ももう聞こえない。
「……チルノと一緒にいたんだ。そしたら霊夢に因縁つけられて……私逃げるしかなかった」
「私行かないと。霊夢はまだこの辺を彷徨いてる。早く逃げて。香霖堂ならきっと安全よ」
静止の声を発しようとするが真っ直ぐ妖怪を見る雀の目はそれすらも防いでしまった。
少し考えるような素振りをしたあと、改めて雀の目を見つめる。
「香霖堂で待ってるから」
「うん」
きっとまた傷を増やしてくるだろう、人一倍声が大きくて、人一倍友達想いな友達のことだから。
帰ってきたらいつものように武勇伝を聞いてやろう。……半分は嘘っぱちだろうが。
「朱鷺子ーー!」
ほら、また騒がしく私を呼ぶ声がする。
[ 1/1 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]