04
赤い髪に赤い瞳。少し茶色に近い気もする。ヒビキたちと同じ年頃の少年は、シルバーという名前らしかった。
「シルバーもカントーに来てたんだ」
「ああ。……お前、ピカチュウなんて連れてたか?」
「いや、僕のポケモンじゃないんだ。レッドさんって人の手持ちだったみたいなんだけど……」
「レッド……?」
シルバーが、彼の名前に何か引っ掛かりを覚えたようだ。ぼくは意識的に感覚を尖らせる。
レッドとバトルしたトレーナーは数多いけれど、その有無に関わらず、彼には見覚えがある、気がして。
レッドの話をかけらでも零さないかと、もしくは自分が思い出さないかと、ぼくは耳まで立たせてシルバーを見上げた。彼はぼくの注目に気づいたけれど、何も言わずに前を向く。ヒビキと彼は、揃ってニビシティのポケモンセンターへと足を向けていた。
「そうだシルバー、シルバーは、グリーンさんって人を知らないかな? たぶん有名な人だと思うんだけど」
「……トキワジムのジムリーダーが、そんな名前だったな」
「ジムリーダーかぁ。……そっか、道理でマチスさんが知ってるはずだよ。ありがとうシルバー」
ヒビキが満足げに空を仰いで、それからぼくを抱え上げた。ヒビキの胸の高さにきて、必然と、シルバーとの距離も近くなる。
――ふと。鋭い眼差しの少年に、何かが重なって、ぶれた。びっくりして目を擦っても、なんの異常もない。そのまま赤銅色の瞳を見据える。今度は視線を逸らされなかった。
ぼくの白い体を見て、やがてシルバーが口を開く。
「ジムリーダーに何の用だ?」
「グリーンさんは、レッドさんの知り合いらしくて。その人なら、レッドさんの居場所を知ってるかもしれな」
「オレも行く」
「え?」
「……行くぞ」
「ちょっと、シルバー!」
シルバーの急な発言に、言葉を見つけられないでいるヒビキを見上げる。困惑の中に不快の色はないから、一応は悪くない間柄みたいだ。
シルバーはヒビキの何だろう。ライバル、ゴールドを通じた知り合い、もしかしたら友達かもしれない。
そんな彼を警戒するのは気が引けない、と言えば、たぶん嘘になる。それでも、もしかしたらヒビキが知らないだけで、『もしかしたら』ということもありえるんだ。
だから、ぼくは早く思い出さなくちゃならない。この背中を。赤銅の瞳を。彼が善良な一般トレーナーであったらいい。――けれど、もし、『あいつ達』の仲間ならば。
ぼくは、一刻も早く、ヒビキ達から離れなくちゃならないんだ。
'100719
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