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優しい瞳を覚えている。少し冷たい手のひらも。時折見せる笑顔が好きだった。それから鼻先をくすぐる若草のにおいと柔い木目。
覚えているものはそれくらい。それだけで構わないと思えるぼくはきっと幸せ。
だから、
「――いたぞ!」
……走って、ぼく。ただ一心に。
理由は忘れた。目的ってなんだっけ。宛もなく頼れるものもない。はねた小石が当たるだけで意識が飛びそうだ、血が滲んでくらくらする。お腹が空いた。もう手足は震えている。でも走らなくちゃ。
生に固執したことはない。生きてみたいと願ったことならある、そしてあの子が叶えてくれた。ただ、ぼくは死にたくない。逃避先が生でないけれど、ぼくはあの子に会いたいだけだ。
(かみさま、かみさま)
どうかあの子にあわせてください。
'100420 はじまり
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