05

ピピピピピ……と、海馬くんの残りのライフ全てが引かれる音が、静寂に包まれた空気を読まずにスタジアムに響く。
勝敗はついた。遊戯くんの、勝ちだ。


一体、何が起こったのか。一瞬分からなかった。

光の護封剣の封印が解ける最後の1ターン。このターンで手を打たなければ、遊戯くんは3体の青眼の攻撃によってライフが0になる。
そんな絶体絶命の状況の中、迫り来る青眼の威圧を物ともせず、遊戯くんは希望に満ちた顔でカードを引いた。

その次の瞬間、遊戯くんが召喚したモンスターは――封印されしエクゾディア。

レア中のレアである青眼の白龍をも凌ぐ、伝説のレアカード。
普通の方法では到底入手できないと、以前耳にしたことがあった。その時は、まあ使わないから別にいいかな、と思っていたけど。
エクゾディアは本体のカード1枚と、それとセットとなる両手足のカード4枚が全て揃った時、無条件で勝利できるという特殊カード。だが未だかつて、それらを揃えた者はいなかった。
それをまさかこんなところで、しかも全てが揃った状態で目にすることが出来たなんて――。

「いくらカードが強くても、心の通わないカードでは意味が無い!
 カードと心を一つにすれば……奇跡は起こるんだ!」

唖然としている海馬くんに、遊戯くんがそう言い放つ。
カードを信じる心。それがこの勝敗の決め手だったのだろう。

「ば、馬鹿な……ボクが負けるなんて……!!」

先程までの自信もライフごとエクゾディアの攻撃によって吹っ飛んだのか、今やその表情は絶望に歪められている。
無理もない。最後の1ターンまでは、海馬くんの圧倒的優勢だったのだから。
改めて考えても、あの状況で残り1枚のエクゾディアを引いた遊戯くんは、すごいとしか言い様がなかった。

「海馬!お前の心の悪を砕く――マインド・クラッシュ!!」

そんな遊戯くんのくじ運に感動と尊敬を抱いていると、その遊戯くんは海馬くんに向けて……何かしていた。いや、本当に何をやっているのか分からない。
海馬くんに向かって右腕を前に突き出し、和訳するとわりと物騒なことを叫んでいる遊戯くん。よーく、じっくり目を凝らすと、遊戯くんの額に、微かに目のようなマークが浮かんでいるように見える。何だろ、あのマーク……。
……あれ?そういえば気付かなかったけど……遊戯くんの雰囲気が、どことなく普段と違う……?こんなこと、前にもあったような気がする。うーん、考えても分からない。 
そして、その反対側に居た海馬くんは、膝をついて崩れ落ちていた。

「に、兄サマ!兄サマ!?」

そんな海馬くんに、一人の男の子が駆け寄っているのが見える。誰だろ?呼び方からして弟さんなのかな。あんまり似ていない気がする。
その弟さんと思わしき子が海馬くんを必死に揺すっているが、海馬くんはぴくりとも動かない。
どうしたんだろ、負けたショックが大きくて固まってるのか……?

でもとにかく、

「城之内くん、やった!やったよ!遊戯くんの勝ちだよ!」
「うおっ!あ、ああ、侑!やったぜ遊戯〜!!」

遊戯くんが勝ったんだ――!
結構な時間差で来た喜びを隠しきれず、隣に居た城之内くんの手をがっしりと握って、私は思わず飛び跳ねていた。ちょっとびっくりさせてしまったようだ。ごめん。
城之内くんも、遊戯くんに向けて笑顔を向けている。
やがて二人が乗っていたクレーンのようなものが下がってきて、私達がいる所と同じ高さで止まった。止まるや否や、遊戯くんはすぐさま私達の元に駆け寄ってくる。

「よくやったぜ遊戯!!まさかあの状況で逆転するなんてよー!」
「うん、本当にびっくりしたよ!あの局面でエクゾディアを揃えるなんて!」
「いや、あれは皆のおかげだぜ。カードを引くことを躊躇っていたオレを動かしてくれたのは、皆だ」

遊戯くんは、私達二人を真っ直ぐ見据えてそう言った。いつもより鋭く凛とした目つきで、その表情は自信に満ち溢れている。
遊戯くんが決闘する前、皆で作った友情の印。遊戯くんはあのお守りに支えられていたんだ。少しでも力になれたようで安心した。
と、そう心が温まっていた時。

「ところで、侑……いつまで城之内君の手を握ってるんだ?」
「え?」

唐突に不思議そうな顔をして、遊戯くんが控えめに指さした先。
そこには強く握ったままの……あっ。

「あ、ごめん城之内くん。手握ったまんまだった……」
「へ?あ、いや、俺は別にいいけどよ。……むしろ、もうちょい……」
「? 何か言ったか、城之内君?」
「な、なんでもねえよ遊戯!」

握っていた城之内くんの手を放す。瞬時に逃げていく暖かさ。よかった、遊戯くんに言われなかったら、多分ずっと握りっぱなしだったかも。
城之内くんの手は結構暖かかった。私の手はいつも冷たいらしいから、丁度よかったのかもしれない。
そして何かもそもそと小声で呟いた城之内くんに、一層不思議そうな顔をする遊戯くん。小さすぎて、遊戯くんより近くに居た私にも聞こえなかった。
と、そこへ。

「遊戯!」「遊戯ー!」
「杏子、本田君!」

病院から戻ってきた杏子と本田くんが、手をめいいっぱい振りながら駆け寄ってきた。お爺さんの方も一段落ついたのだろうか、二人の顔は最後に見た時より穏やかだ。

「遊戯、勝負は?勝負はどうなったの?」
「ああ、勝ったぜ」
「! ホント!よかった、遊戯……!」 安堵して胸に手を当てる杏子。
「ああ、お前なら出来るって信じてたぜ!」 頷く本田くん。

本田くんの言う通りだ。皆の、遊戯くんを信じる力と絆。
それが、遊戯くんの勝利を導いてくれたんだ。もちろん遊戯くん自身の強さも。

「オレの背中を押してくれたのは皆だ。皆、ありがとう!」

力強く、私達を見つめる遊戯くん。
今のこの雰囲気が、とても心地良い。


皆で、手の甲を繋げていく。

「あたし達の、友情の印!」

その丸い印は、さっきより自然に、そしてより強く、形作られていた。










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やっとアニメ1話完結!(しろめ)今回はちょっと短め。
次は多分オリジナル話になるかと思われます。
王様はちょっと天然気味なのが好きです かわいい!






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