03


今日もきっちりと自分の仕事をこなす鐘の音が、校舎全体に鳴り響く。ほとんどの学校に共通する、4つの音からなるシンプルなメロディー。

「あ、居たわ。侑ー!」

晴れ渡った空、なんてありきたりの言葉がぴったり当てはまるような、そんな天気の放課後。やっとこさ帰れるという開放感が、この清々しい天気のお陰で二割増しになる。しかも今日は金曜日。もう、今なら時をかけられる気がする。いつもお疲れ様です、なんて心の中で授業終了のチャイムを労ってしまうほどに、私の気分はすこぶる良い。
そんなことを考えていると、教室と廊下の境界線の向こうに立っている一人の女子生徒が、私に呼びかけているのが聞こえた。
肩のあたりで切り揃えられた茶髪、大きな瞳。よく見知った顔だ。席を立ち、彼女の元へ駆け寄る。

「やっほい杏子!」
「ヤッホー。今から遊戯のとこに行くんだけど、侑も来るわよね?」
「そうだねー、カードパックリベンジしたいし、行こうかな」
「決まりね。じゃ、校門で待ってるわ!」

この前買ったカードパック、いまいちいいカードが出なかったからなあ。そうそう出るもんでもないけど、それでもあれはひどかった。
もちろんどんなカードだって必ず使いどころはあるが、私のデッキに入れられそうなものは一つも引けず。……相変わらず、私はくじ運がない。
杏子たちを待たせるのも悪いと思い、早めに荷物の整理を済ませ、校門へと早足で移動。若干息を切らせて到着すると、いつものメンバーが既に集まっていた。

「あ、来た来た!」
「遅せえぞー侑ー!」
「ごめんごめん、一応早めに来たつもりだったんだけど」
「大丈夫、城之内の言うことなんて気にしなくていいわよ」
「んだとぉ!?」

笑いながらそう私を小突く城之内くんに、私の横に移動しジト目で城之内くんを見てそう言う杏子、そして突っかかってくる城之内くん。
いつものやり取りに、私は思わず笑ってしまう。一緒に居た遊戯くんと本田くんも釣られて笑う。それに対して、城之内くんは不服そうだ。

「ったくよー!まあとにかく、早く行こうぜ!遊戯んち!」
「うん!」

遊戯くんの返事で、私たちは校門を後にする。歩きながら、またすぐに起こる漫才的やり取り。
なんて良い時間なんだろう。自然に引き上がる頬、弾む心。

だが、この後起こっていた事は、もちろん知る由もなかった。









カランカラン。

数日ぶりに聞いた、少し鋭い鈴の音。
それは引き金にしてはあまりに軽く、緊張感のない音だった。

「じいさーん!またカード買いにきたぜー」

城之内くんがそう言いながら開けたドアから、店内に入る。前と違いレジにお爺さんはいなかったが、以前と商品等の配置は変わっていない。だが、どことなくこの間より薄暗く見えた。
なん、だろう。この感じは。
雷がどこかに落ちるまでの間のような焦り。

「おーい、じーさん?」
「じーちゃん、ただいま!」

城之内くんと遊戯くんがそう呼びかけるも、奥の方からお爺さんが出てくる気配は一向にない。声も足音も空気の動きも、一切。

「留守?」
「鍵も掛けずに、不用心だな」

一番に考えられるのは店を空けている、つまり杏子が言った通り留守ということだけど、鍵も掛けずに店を空けるなんて、それこそ城之内くんが言った通り不用心だ。不用心にも程がある。いくらお爺さんが年をとっていてボケが入っていたとしても、こんなヘマはしないだろう。

「……おかしいよ、留守なわけない。お店の商品を野放しにするわけないし」
「けどよ侑、だったら他に何があるってんだ?」
「うーん……そう言われても……。何か急な用事があって、鍵を掛ける暇がなかったとか……?」
「それもなんだか、おかしな話だな」

留守説を否定した私に城之内くんが他の説の提示を求めてくるが、それらしい説が思い浮かばない。適当に挙げては見たが、本田くんに却下される。
うーん。しかしそうでもないと、鍵が掛かっていない理由が分からない。意図的に留守なのはまずないだろう。
本当に急な何か……それこそ強盗か何かが入ったとか、何者かに襲われたとか。でも前者はまだしも、後者は心当たりがない。優しいお爺さんが人の恨みを買うことなんて早々な――。

(人の恨み……?)

い、と繋げようとしたところで、私の心に何かが小さく引っかかった。布の上にシリコンを置いた時のように、私の思考に急ブレーキがかかる。
数日前に起こった、一つの小さな騒動。あの時、あのとき。

何が あったか?

「――!!」
「侑、どうかしたの?」

丸い線路を作る玩具のように、全てが繋がった。声に出ない驚愕。その線路の上を走る、一つの答え。
驚きに目を見開いた私の様子を不思議そうに見てそう話しかけてくる杏子。同じように私を見る本田くん。
それらも視線の外に追いやってしまうほど、私は危機感を感じていた。

「もし、そうだったとしたら……――」

息を多く含んだ小声で呟く。私に何か声を掛けようとしている遊戯くん。
と、その時。

プルルルルルルルル……

まるで計らったかのようなタイミングで、お店に設置されていた電話が鳴り出した。一瞬で皆の視線と意識を奪う。
その時の音は、私には警告ベルのように聞こえていた。
すぐに遊戯くんが駆け寄り、二度目の警告が鳴り終わる前に受話器を取る。

「はい、もしもし」

笑顔で出た遊戯くん。この状況だと相手が若干気になるが、お店宛てだとしたら聞くべきではないな。
と思っていたが、遊戯くんの次の言葉でその考えはゴミ箱行きになる。

「海馬君?」
「――!」


ダーツの矢は、ぴったり真ん中へと突き刺さった。












* * * *













さっきまで青々としていた空は、既に鮮やかなようで禍々しい赤色。隠すように覆い被さっている雲の色と混じって、艶やかな赤紫色になっている。
だが今はそんなこと、果てしなくどうでもいい。とにかく一刻も早く助けなきゃ。


あれから私たちは、海馬コーポレーションに全速力で向かっていた。

遊戯くんが出た電話。それは、海馬くんからの『お誘い』だった。
その内容を要約すると、『お爺さんを海馬コーポレーションで預かっている、返してほしかったら会社まで来い』とのこと。

思っていた通りだった。
この前遊戯くんの家に海馬くんが来た時のこと。海馬くんが、お爺さんの青眼に異様なまでに執着していた、あの事。恨み事について考えた時、そういえばと思い浮かんだのだ。
恐らく海馬くんは、あそこまでしても青眼を譲ってもらえなかった事を不満に思ったんだろう。金を積んでもダメ、物を積んでもダメ。となれば、残るは強行手段を取る他ない。
あそこまで青眼を欲しがっていた海馬くんのことだし、社長としての権力も使ってくるだろう。どんなことをしてくるのか分かったもんじゃないが、とりあえず穏便とは程遠いということはハッキリと分かる。
私がしていた嫌な予感、危機感、それらは全て当たってしまったようだ。本当にくじ運の悪い……!

そうやって走りながら考えを巡らせていると、童実野町で一番目立つ建物が前方に見えてきた。

「見えてきたぜ!」
「うん!じーちゃん、今行くよ!」

薄めたワインのような不気味さを纏った空と共に見える所為か、どことない威圧感を醸し出している。そんな海馬コーポレーションを目の前にして、そう声を上げる城之内くんと遊戯くん。
程なくして入り口に到着。制止する人もいなかった為、そのまま立ち止まらずにエレベーターに乗り込んだ。


上昇するエレベーターと共に、上昇する心拍数。近づく目的地。全てのことが、私の不安を大きくしていく。
お爺さん、どうか無事でいてください……!







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まだアニメ1話前半も終わってないんだぜこれ

うわああ引き伸ばしすぎてる感があああ。すいません。もうしばらくこんな感じです!
夢要素いつ入れられるかな…いつ王国編入れるんだろうな……(しろめ)




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