01
「おーい、侑ー!!」

とある日の放課後。
先生の挨拶の魔法で、何かがぱちんと弾けたかのように一気に生徒達がざわめき、動き始める。物の移動の音、雑談する人々の声が混じりあって、私の耳を独占。
そんな空気の中私は、7限授業に疲れ果て机の上でどろり溶けていた。移動することもせず、ただぼーっと意識をぼかす。
生ぬるい海に浮かんでいるような感覚。
と、締りのない置物と化していた私の耳に、聞き覚えのある元気な声が雑音を掻き分けて入ってきた。
意識がゆらゆらと沖へと向かう。

「ん・・・?」

まだぼやけている意識の中、頭を声の方向へ向ける。
教室のドアの向こうに、これまた見覚えのある金髪頭。彼は私の視線に気づくと、挨拶もなしに教室に入ってきた。

「・・・あ、城之内くん」
「よう、侑!今から遊戯んち行くんだけどよ、お前も来るだろ?」

友の訪問に、机に預けていた身体を起こす。波が、私を沖に打ち上げた。
城之内克也。私の友達の一人だ。元不良らしいが、見る限り金髪である以外はそういう要素が見当たらない。いつも元気で明るい彼には、度々元気を貰っている。まあ、ちょっと頭が弱いという欠点もあるが、それも彼の魅力の一つだろう。
そして彼の言う遊戯くん、武藤遊戯。これも私の友達で、友達思いな優しい性格の持ち主だ。星型のようなヒトデのような説明不能な髪型をしているが、私はもう深く考えないことにしている。
彼ら及び彼らの友達とは最近知り合ったばかりだが、とある一件で仲良くなり、それ以来こうやって別のクラスである私の元にも足を運んでくれたりしている。逆に、休み時間などに私が遊びに行くこともある。
まあ、そんな説明はさて置き。

「遊戯くんの家に?」
「おう!遊戯んちカード屋らしくてよ、デュエルモンスターズのカードもいっぱいあるんだぜ!そんで、じーさんがすげえレアカード持ってるんだってよ!
 お前もやってるって言ってたよな、興味あるだろ?」

デュエルモンスターズ。今、様々な所で流行しているカードゲームだ。
モンスターや様々な補助カードを使い、相手プレイヤーと戦う。単純なようで意外と奥が深いゲームである。
もちろんここ童実野町も例外ではなく、私の友達でも結構な人が熱中している。熱中とまではいかないが、もちろん私自身もプレイしている。
彼の言う通り、今の話には心を惹かれた。思わず背筋が伸びる。

「そうなんだ!もちろん行くよ」
「おっしゃ!そうと決まれば早く行こうぜ!」
「おわっ」

彼はどうしてここまで元気でいられるのだろう。7限授業だったと言うのに、私の腕を引っ掴んで走りだした。思わず声が漏れる。
まあ、彼が元気でなかったらそれはそれで一大事なのだが。









カランカラン

あれから遊戯くん達と合流した私は、遊戯くん,城之内くん,杏子,本田くんと一緒に、遊戯くんの家に向かった。
程なくして到着し、遊戯くんが先陣切ってドアを開ける。まあ遊戯くんの家だから当たり前なのだが。
来客を知らせる水分があまりなさそうな呼び鈴の音が、店内に響き渡った。

「じーちゃん、ただいま!」
「おお、今日は皆一緒か」

遊戯くんに続いて、他の皆も中に入る。
初めて見る遊戯くんの家。思ったよりも遥かに店内は狭い。私達5人が入ると、余計に狭く感じる。人が入る隙間はほとんどないだろう。ドアからレジまでは一方通行で、壁には様々なゲーム等が所狭しと並べられている。レジには、遊戯くんのお爺さんと思われる人が座っていた。黄色いバンダナを頭に巻いていて、顔はどことなく遊戯くんに似ている気がする。その周りには、デュエルモンスターズ等のカードゲームのカードパックが数種類。
城之内くんの話だと、このお爺さんが超レアカードを持ってるそうだが……これだけ小さい店に本当にあるのだろうか。かなり偏見ではあるが。

「ねえ、じーちゃんのすごいカードを、皆に見せてあげてよ」
「何ぃ?あのカードを?う〜ん・・・」

肝心のそのお爺さんは、孫のお願いに対して顎に指を置いて渋っていた。見事なまでのポージングである。
自慢もしたくないとは、余程すごいレアカードなのだろうか。さっきは疑問に思ってしまったが、やっぱり気になってきた。

「お願いっ」
「お願いしまーす!」

拝みポーズの遊戯くんと、笑顔で頭を下げる城之内くん。声を出しはしなかったが、私もそれに乗じてぺこり。
だがお爺さんは変わらず唸り続けている。
と、唐突にお爺さんが私の方をちらりと見た。何だろう?

「んん?そこのお嬢ちゃんは見ない子じゃのう。ふーむ・・・」

あ、そうか。私が遊戯くん達と知り合ったのは結構最近だから、知らないんだ。
そう察し、私は先程とは別の意味で、お爺さんにお辞儀。

「双見侑です。初めまして」
「これはこれは、礼儀正しいお嬢ちゃんじゃ」

ホッホッホ、と笑うお爺さん。

「ハッハ!仕様がないのう!特別じゃぞ?ワシの宝物じゃからな」

おお、どうやら交渉は成功したようだ。笑いながら、女の子の頼みだったらとかなんとか言っている。そんな事でいいのかと思ったが、まあ結果オーライ。
そう言いつつもお爺さんが机の上に出してきたのは、茶色い箱。四隅が銀色のアルミか何かで縁ってある。決して豪華ではないが、何か特別な物を入れておくような箱だ。

「ほれ、これじゃ!」

お爺さんが箱から出した、1枚のカード。
これは……――。

「これは『青眼の白龍』と言っての、超ウルトラ級のレアカードじゃ!」
「青眼の、白龍……!?」

思わず、口から零れる。
予想だにしていなかった、とんでもないカードが出てきたからだ。
『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)』。攻撃力3000,守備力2500。お爺さんの言葉を借りると、二重の意味で超ウルトラ級レアカードである。
前々から存在は知っていたが、目にしたことはなかった。当然と言えば当然だ。
まさか、こんな身近に持っている人がいるなんて――!

「すっげー……!!」
「へー……」

感嘆する城之内くんと杏子。孫の遊戯くんですら、口をぽっかり開けている。見せてもらったことなかったのか……。
そんな驚愕が支配していた空気を切り裂いたのは、後ろで眺めていた本田くんだった。

「へー、こんなのがねぇ」

そう言って、お爺さんの手からするりと『青眼の白龍』を抜く本田くん。あまりにも唐突な行動に、私もお爺さんも皆、新たな驚きに目を見開いた。
ちょ、ちょっと、何言ってるの本田くん。確かに本田くんは決闘者じゃないからいまいち凄さが伝わらないんだろうけど!
そう私が突っ込みを入れるより早く、お爺さんが慌てて本田くんの手からカードを奪い返した。

「世界に4枚しかないうちの1枚じゃ、値段の付けようもないわい」

カードを庇うような仕草で、若干拗ねたようにそう言うお爺さん。
そう、何と言ってもこの『青眼の白龍』、世界にたった4枚しかない。それ故レア度が高いのだ。1枚ではなく4枚というところに、妙なリアリティを感じる。
何故こうも数が少ないかというと、『あまりの強さのためにすぐ生産中止となった』らしい。その中止までの間に生産していた4枚が、現存する『青眼の白龍』なのだそうだ。
あとの3枚がどこにあるのか聞いたことはあるんだけど、……綺麗さっぱり頭から飛んでいる。まあレアとはいえ、私には必要ないカードだ。知る必要もない。
しかし、なんでそのうちの1枚を、遊戯くんのお爺さんが持っているんだろう?

「よーし、じーさん。カード買うぜ」 
「これは売れんぞ!」
「えぇ?」 

逆に違和感を感じる程の笑顔で、そう言う城之内くん。より一層カードを私達から遠ざけるお爺さんに、彼は意外そうな声を出した。いや、いやいやいや。君は何を言ってるの。

「そ、そんなもん買えねーよ。なるったけ、強いカードが入ってるヤツくれよなー!」

あ、ああ。そうだよね。城之内くんでも流石にそんなことはしないよね。びっくりした、カードパックの事かあ。
そうだなあ。私も折角だし、パック買おうかな。ここ最近はあんまり買ってなかったし。生活費もちょっと節約していたから、お金はあるはずだ。そう思い、通学カバンの中から財布を探す。
そんなこんなで、先ほどの少し妙だった雰囲気も、段々と和やかに戻りつつあった。


カランカラン


だがそんな平和も、こんな音のように少しずつ崩壊していく。
平和の欠片は、知らぬ間に手の届かないところへと落下していった。









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唐突かつ無計画に始めてみました。い、いや、これからたてるって!
長くなりそうですね、うーん。
夢主の性格は穏やかとかぼーっとしてるとか書きましたが、地の文はどうしても自分が出てしまいます。まあ説明も兼ねてるから、地の文までのんびりしてるわけにはいかないですね。ぼちぼち調整していきたい。

(名前変換がうまく働かないみたいです・・・。なんでだ。原因調査中…)






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