07
今日もただ、何もない1日を過ごす予定だった。

変わったことと言えばテストがあったぐらいで、突きつめてしまえばそれだっていつものこと。
空は快晴、心地いい空気。
まあ、ちょっとだけ気分がいい日かな、と思っていた。

どうして今、こうなっているんだろう。

「俺が細工して、ここらへんは人が寄りつけねえようにしてあるはずだ……」
「誰も助けになんて来れねえよなぁ!ヘヘヘ」

4畳あるかないか程度の小部屋。暗い室内だが、壁に取り付けられた真っ白なホワイトボードがはっきりと目に見える。部屋の中央には会議用のローテーブルが横向きで縦に3つ並べられ1つの大きなテーブルと化しており、その周りをパイプ椅子が囲んでいる。
きっとミーティングか何かをするための部屋なのだろうここで、私は男2人に囲まれていた。一人はドレッドヘアー、もう一人はこの店の制服を着ている。ああ、店員だからこんなとこ利用できたんだな、なんて考える。
それらは私を見下ろして、薄汚い笑顔を浮かべていて。

「なん、で」

私は、襲われようとしているんだろうか。
おかしい。なんで、どうして、逃げたい。いやこれは夢だ、早く覚めたい。逃避。そんなことばかりがぐるぐると頭の中を走って掻き回す。砂埃が舞い、視界が閉ざされる。
なんだ、これは?逃げなきゃ、いけないのに、うごかない。うごけない。うごかない。動かない!
恐怖で身体が強ばり、指先さえまともに動かなくて。

「おい、そっち押さえとけ」
「オッケー。安心しろよ、乱暴にはしねえさ……」

歪む意識と視界の中、突然グッと手の方に力がかかった。押さえられた。同時に、右上の方から声がねっとりと降ってくる。
身体中からサアッと血の気が抜けていき、力も入らずに、ただ身体を震わせることしかできなかった。
特別筋力があるわけじゃない。護身術みたいなものを身に付けているわけでもない。もちろん武器もない。
この状況から、抜け出せない。逃げ道はもうとっくに。

足の方に体重がかかる。朧げに顔を上げると、ドレッドヘアーの男が私に乗りかかり見下ろしていた。
ああ。

怖い。
恐い。
怖い。怖い。
怖い――!

「こわい……」

自然と口から出た、小さな弱音。覆いかぶさってくる黒い影。
悪魔の手が小さな心臓に触れようとした、その、瞬間。


カチャリ。


その音は、私に付けられていた恐怖という枷を外す音に聞こえた。

「な、何だお前?」

それは本当に突然で、古い家の階段のように急な出来事。
何者かに開けられた扉の方へゆっくりと目をやると、そこには一人の少年が立っていた。

「おいおい、ガキは引っ込んでな!」
「チッ……すぐ済むと思って、カギ閉め忘れてたぜ……」 噛み付く男と、舌打ちする男。

そんな2人にも、彼は怯む様子もなく。

「ハッ!女の子にカツアゲするような腐った大人じゃ、高が知れてるぜ!」
「んだと……!?」

ニヤリ、と笑って2人の男を見据え、挑発する彼。
その風貌はなんとも言い表しがたい。ツンツクと多方向に尖っている奇妙な髪型に、妖艶さを感じる顔立ち。背丈はさほど高くないが、妙な威厳を漂わせている。
私の通う学校と同じ制服を着ている。青いブレザーの男子制服。でも、見知った顔ではなかった。
只者ではない雰囲気。一言では形容できないような人だ。
一体、何者なんだ?

「怪我したくなけりゃとっとと帰りな!ガキが!」
「その言葉、そのまま返してやるぜ」
「な、何?」

ドレッドヘアーの男が立ち上がり、少年を睨みつける。遠ざかる影。それだけでも、少し安心する。
そんな自分よりも一回りほど大きい体格の男に見下されても、彼は動じない。寧ろ、さらにその笑みを深くして。
宝石のように綺麗な赤い瞳を楽しげに光らせ、彼はこう言った。

「オレとあんたらで、ゲームをしようぜ!闇のゲームをな……」






* * * *







「まず、ゲームをするのはどちらか一人だ。決まったらそこの椅子に座るんだな」

そう言いながら、彼は私達の居る位置からテーブルを挟んだ向こうの椅子に座った。変わらず妖しく笑ったまま、足を組む彼。ただのパイプ椅子なのに、彼が座るとまるで玉座のようにも思えてしまう。不思議だ。

「オレがやる」 そう言って椅子にどっかりと腰掛けたのは、ドレッドヘアーの男だ。
「ヘマはするなよ!」 傍に立つ店員の男。

3つ並べられたテーブル、その1つ目と3つ目に、2人が向かい合うように座る。互いに目線を合わせ、一触即発な雰囲気を漂わせて。
隅の方にへたり込んでいた私はというと、大分身体も動くようになってきていた。未だに恐怖心が残っているのか立つまではできないが、手足は動く。幸い位置は良かったようで、座り込んでいても向こうに座っている彼の姿は見ることが出来た。

「で、そのゲームってのはなんだ、坊や?」
「焦るなよ、今から話してやるぜ」

そう言って、足を組み替える彼。

「今お前の前にある机の下に、引き出しがあるはずだ」

引き出し?こういう机には引き出しどころか、物を置く棚もないはずだけど……。
と思っていたが、いざ確認してみると、学習机のようにいくつもの引き出しが会議用の机の下に付けられていた。あれ?いつの間にあんなものが……。
引き出しの種類は4つ、細長いものとそれを短くしたもの、そして一番縦幅が広いもの。大抵の、机に付いている引き出しのバリエーションと同じだ。

「な、何だこりゃあ?」
「それはお前の『心の引き出し』だ!それぞれの引き出しに、今までのお前が全て仕舞われている。そしてその中に金が1つ埋まっている。
 それを先に取れた奴の勝ちだぜ」
「ヘッ!なんだ、やけに簡単じゃねえか!」
「フフ、それはどうかな?」

不敵に笑う、向こう側の彼。
彼はあの引き出しを、心の引き出しだと言った。どういうことだ?それに先程から彼が言っている、闇のゲーム。一体何なのだろうか?さっぱり読めない。ただふざけているだけなのか……?
いや、それでも。私は何故だか、彼がこの状況を打破してくれると確信していた。

「いいからさっさと始めようぜ、誰かに気付かれる前によ」 店員の男が急かす。
「その前に1つ言っておくぜ」

彼はそう言って、店員の男を制す。
その次の瞬間、男の机の引き出しの中から、カサカサ……と大量の何かが蠢く音が……した。
キイキイと引き出しの底を引っ掻いているような音も聞こえる。
どちらも結構な不快音だ。悪寒が走る。台所によく出没する皆大嫌いなこげ茶色のアイツのイメージが即座に浮かんできたので、それはもう必死に取り払った。
な、何なの?さっきはこんな音しなかったのに。

「な……何だ、この音は!」
「ソイツは、お前が過去に行った悪事が具現化したものさ!オレの方にはそれほどいないようだが……フフ、その中に手を入れられるかな?」
「悪事だと……?」
「ソイツに噛まれると、被害者の心の痛みがお前に伝わる!大物に噛まれたらひとたまりもないぜ」

変わらず響く不快音。それから生まれる不安、疑問。いつの間にか辺りを包み込んでいる、暗い霧。
明らかに異質な空間へと変わったここに、先程とは別の種類の恐怖が生まれてくる。

「それともう1つ!この霧の中には、罪人を食らう猛獣が潜んでいる。猛獣の動きはオレにも予測出来ない。よく注意することだな」

そして再び。彼がそう告げた途端、辺りからグルグルと獣の唸り声が響いてきた。1匹だけじゃない、複数……最低でも2匹、下手をするとそれ以上いる。
どうなっているのか分からない。不可解な事が続きすぎて、現実との境が曖昧になってしまいそうで。必死に線を引き続ける。
これから一体、何が始まるんだ……!?

「さあ、ゲームを始めるぜ!――ああ、その前に」
「なんだテメェ!まだ前置きする気か!!」

やっと始まるか、と思った所で、彼は再びこの場を止める。ドレッドヘアーの男が辛抱しきれずに席を立ち上がった。
そんな男を気にも留めず彼は静かに立ち上がって、そして。
私の前まで来て、その足を止めた。

「……?」
「君は、見るべきじゃない」
「え、えっ?」
「しばらく休んでくれ」

そうして彼の手が私の目を覆い視界を消す。一瞬にして暗闇に呑まれ、思考が急激に減速していき。
考える間もなく、私の意識は眠るように穏やかに消えていった。






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文が分かり辛そうで不安。細かく説明しようとすると長くなっちゃうし難しい……
時間軸が一応原作初期あたりなので、闇のゲームをぶち込んでみました。原作のようなスリルがないのはもうキニシナイ!(白目)考えても考えてもダブるので_(:3」∠)_ これもダブってたらと思うけどもうキニシナイ!
1話の展開が遅いのでもっと丁度いいぐらいにしていきたいですね……




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