06

何にもない、ある日の放課後。
空は生憎、澄んだ青より濁った灰の割合の方が多くて、いまいちすっきりしない。だからと言って今日一日が何か変わるかと言えばそうではなく、ボクはいつもと同じ日々を過ごしていた。
誰一人欠けていないボクの友達。晴れていても曇っていても、関係ない。

「くーっ!やっっとテスト終わったぜ!」 晴れやかな表情で、城之内君が背伸びしている。
「ボク、あんまり書けなかったよ……」
「まーまー、そう落ち込むなよ遊戯!」
「とか言って、あんたもロクに書けてないんじゃないの?」
「う、うるせー杏子!」

今日は中間テストの最終日。落ち込むボクを励ましてくれた城之内君を、杏子がからかっている。その隣で笑う本田君。
そんな皆を見て、僕も笑ってしまう。さっきまでの憂鬱感はすっぱりと消えていた。
水底から水面上まで浮かび上がって、空気を思いっきり吸い込んだように。

「まーとにかくよ!テストが終わった記念に、ハンバーガーでも食いに行こうぜ!」
「うん!」

記念というか、何でもない日にでも食べに行ったりしてるよね。と言おうかと思ってやめた。こういう日に食べると、いつもよりもっと美味しいから。
折角だし、今日はちょっと高いものでも買おうかな。
そんなことを考えて皆と談笑しながら歩いていると、直に店に着いた。いつもボク達が食べに来ているお店だ。
空いている4人席を確保して、ボクと城之内君でレジへ向かう。どの場所もそこそこ並んでいる。とりあえず適当な列の最後尾に並んだ。

「遊戯、何食べるか決めたか?」
「うーん、まだ決めてない。でも、今日はちょっと高いのにしようかなって」
「おおっ、じゃあ買ったら一口くれよー!」
「うん、いいよ!」

俺はいつものにしとくぜ、と言っている城之内君の話を聞きながら、ふと視線を奥に向けた。
その先には、STAFF ONLYの文字が書かれたドア。文字だけで人々の足を止める、妙な力のあるそれだ。
それだけなら特に何もなかったのだが、その前に一つ気になるものがあった。

「ちょ――は――てくだ――ん、ぐ!」
「――くしてろ!」
「……?」

そのドアへ今にも入ろうとしている、一組の男女。男の方は長めのドレッドヘアにダメージジーンズの、いかにも軽そうな男。女の子の方は、もみあげの部分だけ長い三つ編みにした黒髪のショートカットに、目立つピンク色の学生服を着用している。あの制服、童実野高校の女子制服だ。ボクと同じ学校の人……。
従業員専用入り口に入ろうとしている時点でよろしくないことではあるが、その二人の雰囲気がどう見ても普通ではなかった。男が女の子の腕を無理やり引っ張って、中に入れようとしている。微かに聞こえる声も穏やかなものではない。
静かな攻防。そんな女の子の抵抗も虚しく、その身体は奥に引きずり込まれた。
ぱたん、と静かに扉が閉まる。

「……」

周りを見ると、誰も気付いていないのか、はたまた気に留めないでいるのか、誰もドアの方を見ている人はいない。店員も仕事が忙しくて気付いていないようだ。
…………。

「ごめん城之内くん。ボク、ダブルチーズバーガーね!」
「え?お、おい遊戯!」

そう言って城之内君に財布を渡し、ボクは店の奥へと駆けていった。











重たいようで軽かった扉をくぐり抜けると、その先は妙に暗い。
奥の方から店員らしき人の声が聞こえる。けど、今ボクが居る周辺には、誰もいなかった。

「あの人、どこに行ったんだろ……」

城之内君を置いてボクが向かったのは、あの男女が入って行った従業員専用入り口。
別に、あの二人の内どちらかが知り合いだったというわけではない。なんだか放っておけないような、そんな胸騒ぎがしたんだ。
何でだろう。自分のことなのに、なんだか遠くに感じる……。
そう不思議に思いながら、人に見つからないよう警戒しつつ奥へと進む。

「――!っ……」
「ん?」

ほんの少し、耳の横を静かに通り過ぎる音。どこから聞こえているのか分からない。
でも、間違いない。あの二人の音だ。
辺りを見渡すと、ドアが2つ。その内の1つには、中が見えるように一部分に透明なガラスが貼られていて窓のようになっている。中を覗くと、ダンボールなどが雑多に置かれている。物置か何かだろうか。人はいないので、ここからではないらしい。
とすれば、可能性は残りのものにある。

「こっちかな……」

それは先程のドアの反対側の壁にある扉。こちらは中を覗けない仕様になっていた。
辛うじて開けられていた通気口に耳を当て、音だけで状況を探る。

「離して!」
「ハッ!帰して欲しけりゃ、金とカードを置いていきな!」
「安心しな、無理やりかっぱらったりはしねぇ。オレ達優しいからよぉ!」
「ヘヘヘ!」

部屋から流れこんでくるひんやりとした空気が、耳や顔に当たる。それに混じって聞こえてくる3つの声。
1つは女性特有の高い声、残り2つは低い男性の声だ。間違いない、さっきの。
内容からして、どうやらカツアゲされているようだ。なんてヤツらだ。そんなことを、ましてや女性相手にするなんて!

「お金なんてないし、カードだって持ってないよ!」
「しらばっくれたって無駄だぜ、お前が双見家の娘だってことは分かってるんだからなぁ!」
「ど、どうして……」
「ハハハ、個人情報の管理には気をつけねえとな?」
「……っ」

くるくると、女の子を混乱させようとしているかのように、代わる代わるに話す男達。
双見家……ボクには馴染みのない名前だけど、どうやらこの子は結構な家の出らしい。お金持ちな女の子、狙われるには十分すぎる条件だ。なんとか助けないと!
しかし、放っておけなくてここまで来てしまったけど……あの場にボクが出て、あの子を助けることは出来るのか。
相手は成人した男性二人。ボクも一応成人は近いけど、普通の男子高生より身体は小さいし、筋力があるわけじゃない。相手を抑えることはできないし、二人だとなんとか部屋から抜け出すことも難しい。
ボクが飛び出していったところで、状況は変わらないに等しいだろう。
一旦戻って、城之内君や本田君を呼んでくるべきか――。

「そ、それでも……ないものはないよ」
「口じゃあ何とも言えるだろうが!」
「まあまあ、そう言ってやるなよ。ないんじゃ仕様がないぜ」
「え?」

と、ボクが立ち上がろうか迷っていた時。
突然、片方の男がもう片方の男を宥めだした。唐突すぎて、女の子も間の抜けた声を上げている。
どうしたんだ……?ここに来て心変わりなんて、あるはずがない。何のつもりなんだ。

「だったら――ヘヘ、その分だけ『可愛がって』やろうじゃねえの」
「――っ!?」 女の子の声が、驚愕と恐怖を纏う。
「なるほどなぁ、ハハハ!そりゃあ楽しめそうだぜ……」
「面だってなかなか綺麗だしな、ヒヒッ」

状況は、最悪な方面へ動こうとしていた。
こいつら……!
可愛がるって、そういう、そういうことじゃないか――!


「――許せない!!」


心が怒りに支配される。衝動的に動き出す身体。
その瞬間、ボクの意識はそこで途絶えた。








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間が空いてしまいました。オリジナルの構成をしっかり決めてなかったので、書くのに時間が。あとテスト。
早々ですが遊戯達との出会い編です。達って言っても、全員絡ませるかは未定……!

夢主の髪型若干変えました。ただのショートカットじゃあまりにも遊戯王っぽくないので……これでも遊戯王っぽさないんですけどね。うーん どうすればいいんだろ!
about&settingもちょこちょこ変更してます。これからもちょこちょこ変わるとおもいます……



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