Short novel | ナノ


  




 岩屋の中を歩き回りながら、レゴラスはアレゼルを迎えに外へ出た時の事を思い出した。声をかけようとした時、アレゼルはドルイニオンがある方角を見つめていた。何か考えているような顔に、故郷に帰りたいと思っているのだろうすぐに気がついた。手紙は毎月出しているようだが、やはりたまには帰りたくなるのだろう。レゴラスがそう思っていたら、先程のクーリンディアというエルフが荷馬車に乗って現れた。初めは分からなかったようだが、すぐに分かったという顔をして一緒に荷馬車で岩屋へと向かったのだ―――狭い御者席で彼と密着したまま。

「(友達だから意識してないんだろうけど、アレゼルって無防備のような気がする……)」

 クーリンデアのことを疑っているわけではない。しかしレゴラスはなんとなくだが、彼がアレゼルの気持ちに気がついて一緒にドルイニオンに連れて行ってしまわないか心配になった。アレゼルが勝手に行くようなことはないだろうが、その気になれば父の許しを得ようとはするだろう。

「……僕って、こんなに独占欲強かったっけ」

 「今までアレゼルがずっと側にいたせいだろうか。これではいつか、彼女を束縛してしまいそうだと溜息を吐いていると、アレゼルとクーリンデアが歩いている姿が向こう側に見えた。久しぶりに会った友人との会話が楽しいのか、アレゼルは可愛らしい笑顔を浮かべている。
 今夜あたり、彼が帰る前にアレゼルを一時帰郷させてもいいか父に聞いてみよう。この岩屋は広いが、彼女を一番リラックスさせてあげられるのはやはり故郷の地だ。そう思ったレゴラスは元来た道を引き返し、王の間へ足を向けた。


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 一方、レゴラスが王の間に行っている間、クーリンデルはアレゼルと庭に出て話をしていた。アレゼルが岩屋に住み始めてからのことを話していると、クーリンディアが尋ねる。

「アレゼルって、ドルイニオンに帰ってきたりしないのか?」
「帰れたらいいんだけどね……。庇護下だから簡単に帰りたいなんて言えないわよ」
「そっか……。もし帰れるなら一緒に行けたらなー、なんて考えてたんだが」
「それに、いつか一緒に行きたい相手がいるんだ」
「恋人ができたのか?」

 無言で顔を赤くするアレゼルにクーリンディアはあの王子様かとすぐに察した。二人で王の間に入った時、彼はあからさまな嫉妬の眼差しでこちらを見てきた。恐らく自分がアレゼルを馬車に乗せたところを見たのだろう。誤解されてないと良いのだが……と考えながらクーリンディアはアレゼルと故郷の話を続けた。





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 クーリンディアがやって来た日の夜、アレゼルは宴の席で葡萄酒を飲みながら昼に聞かれたことを思い出していた。あんなことを聞かれてしまったらますます帰りたい気持ちが強くなってしまう。明日試しに王へ里帰りしたいと言ってみようか。王も冷酷な方ではないし、故郷に帰ることぐらい許してくれるだろう。クーリンディアは明日の昼には帰ってしまう。もし帰れるなら一緒に・・・・・・。
 その時、スランドゥイルの近習がやって来て王が呼んでいるとアレゼルに伝えた。席を立ってスランドゥイルの椅子に近づくと、葡萄酒を継いだ杯からアレゼルに視線を移す。

「お呼びでしょうか」
「ああ。アレゼル、そなたに明日からしばし暇を与える」
「え?」
「たまには故郷の土を踏むがよい」

 それだけ言うとスランドゥイルはアレゼルを下がらせた。突然自分の願いが叶って少し混乱しているアレゼルの視界に、こちらを見ながら満足気な笑みを浮かべるレゴラスが映る。全てを察して駆け寄ろうとするが、なぜかレゴラスはその場から動いて部屋の外に出てしまう。後を追ってアレゼルが廊下に出た。


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