Short novel | ナノ


  




 翌日、アレゼルはスランドゥイルの許可を得て岩屋近くを散策していた。昼間はレゴラスも王子としての執務がある。本当は奥まで行ってみたいのだが、シェロブの子孫の毒蜘蛛や危険な生き物が徘徊しているためスランドゥイルやレゴラスから禁止されていた。川が流れる音を聞きながら、アレゼルは長く帰っていないドルイニオンに思いを馳せた。両親や仕事仲間だったエルフ達もは元気にしているだろうか。月に何回か手紙を出しているが、やはりたまには顔を見に行きたい。しかし王の庇護下にいる以上勝手なことはできないし、許可を貰いに行くのも若干躊躇われる。
 何か手だては無いかと思っていると、荷馬車が前方からやって来た。ぼんやりとそれを見ていると、荷馬車を操るエルフがアレゼルを見るなり驚いた顔をする。

「アレゼルじゃないか!」
「あの…誰、でしたっけ」
「クーリンディアだよ。一緒に仕事してたじゃないか」
「……クーリンディア!?何でこんなところにいるのよ!」
「アレゼルが居なくなった後は俺が王に葡萄酒を届けてるんだ。気づいてなかったのか?」
「気づかないわよ。私ほとんど岩屋の中にいるし」

 クーリンディアはアレゼルがドルイニオンにいた時近所に住んでいた年上のエルフだ。仕事場も同じだったため、よく二人で話をしたことがある。クーリンディアが乗っていく?と手を差し出すと、アレゼルはその手を取った。ガタガタと揺れる荷馬車に乗りながら他愛いもない話をする。久しぶりの友人との会話を楽しむ自分を見つめる影があるとも知らずに。

+++++++++


 岩屋に入ってアレゼルはクーリンディアと共にスランドゥイルのいる部屋へ行った。

「何もアレゼルがワインを持つことはないぞ」
「いいのいいの。あー、こうやって久しぶりに葡萄酒を持つと思い出すわ。私一回、葡萄酒を持ったまま王の前で転んだのよね」
「大丈夫だったのかよ……」
「中身は無事だったから」

 レゴラスに会ったのもその時だった。アレゼルが転んだ時に、ちょうど部屋に入ってきたレゴラスが手を差し伸べてくれて心底恥ずかしかったのを覚えている。しかしあれがレゴラスの事を意識する切っ掛けだったのだから、由としよう。王の間に入ると、何かを報告しに来たらしいレゴラスもいた。

「隣にいるのは?」
「私の友人、クーリンディアです」
「お初にお目にかかります、レゴラス王子。ドルイニオンから王に葡萄酒をお届けに参りました」

 スランドゥイルがゴブレットに注がれた葡萄酒を飲む。何時も通りの変わらない豊潤な香りに満足したスランドゥイルがクーリンディアに下がれ、と命令するとアレゼルもクーリンディアと一緒に部屋を出た。それをじっと見つめるレゴラスにスランドゥイルがクツクツと笑う。

「妬いたのか?緑葉よ」
「……その様なことは。彼はアレゼルの友人です」
「ならば何故、どこぞのエルフのように眉間に皺を寄せているのだ」
「……」


 お前も下がっていい、とスランドゥイルはレゴラスを部屋から出した。


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