Short novel | ナノ


requited love  




「あの男はどうした」
「今は地下牢に」
「・・・・・・小刀を与えて外に放り出せ。二度と岩屋に近づくなと言い添えてな」
「は」

 部下が去ると、スランドゥイルは大きく息を吐く。最初はその場で首をはねてやるつもりだった。だがアレゼルの前でそんな事をすれば、きっと後悔の念にとらわれていただろう。だから岩屋からの永久追放だけにした。小刀があれば小動物を狩るなりなんなりして食い繋ぐことはできる。あの男がしたことは決して許すわけにはいかない。だがそれより、アレゼルをすぐ探しに行かなかった自分が一番憎かった。普段の彼女なら、仕事に遅れてくる事などあり得ない。服を破かれただけのようだが、あと1秒でも遅れていればあの穢らわしい手でアレゼルが汚されていたかもしれないのだ。
 アレゼルはあれから一歩も部屋から出ようとしない。仕方なく代わりの者を近習として置いているが、やはり彼女でないと落ち着かない。夕餉の時間にもう一度部屋へ行ってみようかと考えていると、鎧ごと着替えたアレゼルがやって来て跪いた。

「遅れました事、お詫び申し上げます」
「・・・・・・良い。それより、今夜余の部屋へ来い。迎えを遣わす」
「かしこまりました」

 必ず伝えなければ。積年の想いを叶えるために、アレゼルを守るために。











 + + + + + + + +









 夜。言われた通り、アレゼルはスランドゥイルの遣いと共に彼の部屋へ行った。何の用だろう。今日は夕餉も別だったから夜伽の相手をしろという事ではないと思うが、もしそうだとすれば今夜ばかりは彼を受け入れられる自信がない。
 部屋の前に来て遣いの者が呼びかけると、入れと声が返ってきてアレゼルは意を決したように中へ入った。

「近う寄れ」
「・・・・・・」

 言われた通りにすると、スランドゥイルの逞しい体に包まれる。

「スラ」
「すまなかった」
「・・・・・・何で貴方が謝るのよ」
「もう少し早くそなたを探しておれば、涙を流させずに済んだものを。許せ、アレゼル」
「スランドゥイルのせいじゃないわ。非力な私がいけなかったの、王の近習失格ね」
「そなた程近習に相応しい者にはついぞ出会うたことがない」

 そう言うと、アレゼルが小さく ありがとう と呟く。一旦身体を離すと、やはり涙を流した跡がアレゼルの頬にあった。

「今宵そなたを呼んだのは、伝えねばならぬことがあるからだ」
「奇遇ね。私も貴方に言わなきゃいけないことがあるの」
「何だ?」
「・・・・・・私、この森を出ようと思ってるの」

 いきなり、スランドゥイルは周囲の音が全て消えたような気がした。今彼女は何と言った?

「何故・・・・・・何故だ」
「貴方のためよ」
「余の?」
「私は弱い。男一人退けることもできない近習なんているだけ無駄だし、主を守る事なんてできないわ」
「強いではないか。今回は運が悪かっただけであろう」
「いいえ。それに、私もう耐えられないの」
「何にだ」
「近習としてでしか貴方の側にいられないことが」

 言ってしまった。しかし引くことはできない。

「貴方のことを愛してる。ドリアスにいた頃から、ずっと。もしスランドゥイルが王でなければとっくに愛を告白していた。でも、もう自由だったあの頃の私達じゃない。身分に差ができてしまった」
「身分に何の意味がある」
「あるわ。身分が高ければそれだけ周囲に対して責任ができる。王は臣民が暮らす国を存続させるため世継ぎを残さなければならない」
「・・・・・・」
「子息や息女には身分に見合う血が流れてなくてはならない。私には平民の血しか流れてない」

 スランドゥイルは何も言わない。ただ、悲しそうな表情でこちらを見ている。

「私は、貴方の妻にはなれない。それだけでも辛いのに愛しい人が別の女性に愛を囁くのを側で見ているなんて耐えられるわけないわ。・・・・・・今まで、近習として仕えさせてくれてありがとう。貴方のことは忘れるから、私のこともどうか忘れて」

 背を向け、部屋を出ようとする。スランドゥイルは咄嗟にアレゼルの手を掴むと思い切り引き寄せて唇をふさいだ。逃れられないよう腰に腕を回し、片方の手で後頭部を掴み固定する。口の中で舌を絡め、蹂躙するように口腔内を犯していった。そしてそのまま椅子に座らせると、膝の上にのしかかる。
 限界が来たのかアレゼルに胸をバンバンと叩かれ、スランドゥイルはようやく唇を離した。

「何故、余がそなたを近習に選んだと思う?」
「・・・・・・知らない」
「愛しいそなたを他の男に取られぬようにするためだ」

 意外な答えにアレゼルは一瞬ぽかんとする。スランドゥイルは続けた。

「余もドリアスにいた頃からそなたを愛しておる。食事を一緒にとらせるのも、夜伽の相手をさせるのも、アレゼルの全てを独占したいと思っておるからだ」
「嘘・・・・・・」
「断じて嘘ではない。でなければ、ただの近習にここまでする訳ない」
「・・・・・・」
「身分が違うというのはわかる。だが余とてシンダールの正当な王家の血筋ではない、この身に流れておるのはそなたと同じ平民の血だ。であれば、何の問題はないであろう?」

 黙って聞くアレゼルの目に再び涙が溢れてくる。スランドゥイルはそれを指で拭うと、両手でアレゼルの顔を包んだ。

「今夜伝えたかったことは、余がアレゼルを愛していることと、我が妻になって欲しいという事だ」
「でも・・・・・・っ、私は貴方以外に肌を・・・・・・」
「アレゼルの意思ではない。それに、妃となれば今回のようなことは二度と起きるまい」

 膝から降り、スランドゥイルは床に膝をつくとアレゼルの手を取る。

「余の妻となってくれぬか?アレゼル」
「・・・・・・後悔しない?」
「ああ」
「政務中にお酒飲もうとしない?」
「・・・・・・ああ」
「何よ今の沈黙は」
「き、気のせいだ。返事を聞かせてくれ」

 アレゼルはスランドゥイルの手を包みこみ、椅子から降りると素晴らしい笑顔を浮かべながら口を開いた。

「喜んで貴方の妻になります。スランドゥイル」

 


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