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欠落


 姿は見えないが確かに恐怖を感じながらドゥリンの橋へ急ぐ。途中途中で現れるオークの攻撃をかわしながら走っていると、地面の割れ目から炎が立ち上り、バルログはその姿を現した。振り返りその姿を目にしたエレンミアは一気に恐怖が全身を駆け巡るのを感じた。思わず立ち止まりそうになったが、レゴラスに腕を引かれ前を向き走り出す。
 出口のようなものが見え、ガンダルフがそちらへ行くよう促しそれに続く。しかし入ってすぐに階段が現れ、ボロミアは勢い余って落ちそうになったがレゴラスが後ろから引っ張り助かった。空間には岩を切り出したような階段が多く作られており、奥に一つ小さな階段が見える。カザド=ドゥムの橋だ。

「アラゴルン、ここからはお前が皆を率いていくのじゃ」
「それは、どういうことです?」
「言った通りじゃよ。もはや剣は役に立たぬ、急ぐのじゃ!!!」

 嫌な予感を感じながらアラゴルンは仲間の後に続いた。バルログはすぐそこまで迫っているのか、背後の岩壁から咆哮が聞こえてくる。少し進むと階段は途中で途切れており飛ばなければ先に進めないようになっていた。まず最初にレゴラスが飛び、次にガンダルフ、ギムリ、サムが行く。メリーとピピンもボロミアに抱えられ渡る。エレンミアも無事渡り、残るはアラゴルンとフロドのみとなった。

「怖いか?」
「す、少し」
「しっかり掴まれ」

 ぎゅっとフロドを抱き寄せアラゴルンは飛ぶ姿勢に入る。その時、バルログが壁の向こうで動いた反動で地が揺れ、二人がいる階段も大きく揺れた。たたでさえ崩れかけているのだ。このままではすぐに崩壊してしまう。再び地が揺れて二人のいる階段の下部分にヒビが入ったのか前に動き出す。全員が固唾を飲んで見守っていると、階段はそのまま前に倒れ、断面同士がぶつかった瞬間に二人とも飛び乗り、無事全員で階段を進んだ。
 カザド=ドゥムの橋は一人ずつしか進めないようなほど細い橋だった。柵なんてものは当然ないため、一歩足を踏み外せば下に落ちてしまうだろう。ホビット達を先に渡らせ、ガンダルフを最後に皆渡っていると、バルログが炎と共にその姿を現した。裂け谷の古い文献でしか見たことのない巨大な敵にエレンミアは息を飲んだ。ガンダルフはバルログに対峙している。彼なら大丈夫、そう思いたいのに不吉な予感をぬぐうことができない。フロド達も固唾を飲んで様子を見守っている。バルログは炎の舌のような剣と鞭を持ち、まずは剣をガンダルフに向かって振り下ろした。

「儂は神秘の炎に仕える者、アノールの炎の使い手じゃ。お前の暗黒の火には屈せぬ!!」

 そう叫ぶと、ガンダルフの杖は白い光を出し、彼を包む。光に当たった剣はまるでマグマのように溶け去った。バルログは怒りの咆哮を上げ、鞭を持ち直し橋にその巨大な足を進めた。

「ここは!!断じて、通さん!!」

 橋に杖を叩きつけると、ガンダルフとバルログの間が崩れ始め、態勢を崩したバルログは深い底に落ちていった。戦いを見守っていた全員はほっと大きな息をついた。ガンダルフも険しい顔をしながら一息つき、橋を渡りきろうと背を向けたその時。暗闇の底からバルログの鞭が伸びてきて彼の足首を捕らえた。不意を突かれたガンダルフはそのまま引きずられ、なんとか橋にしがみついた。

「ガンダルフ!!!!」
「駄目だ、行くなフロド!!」

 ボロミアに止められるが、それでもフロドはガンダルフの元に行こうともがいた。

「早く行け、馬鹿者」

 そう言うと、灰色の魔法使いは亀裂のはるか下へと落ちていった。フロドの悲痛な叫びが坑道内に響き渡る。もがき続ける彼を抑えながら、ボロミアは橋の方を呆然と見つめるアラゴルンの名前を呼んだ。向こう側まで追いついたオーク達がこちらに矢を放ち始め、やっと我に返ったアラゴルンは大きな喪失感を抱えながら仲間と共に出口へ急いだ。


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