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森の奥方


 ハルディアに連れられ、一行はロスローリエンの首都カラス・ガラゾンに到着した。裂け谷とは全く違う神秘的な雰囲気に圧倒されながら宮殿に向かいその入り口に行くと、ほどなくして領主であるガラドリエル、ケレボルンの夫妻が9人の前に姿を現す。

「敵はそなたらがここに到着したことを知っている。もはや秘密裏に動くことは叶わぬだろう。谷を出発したのは10人と聞いたが、ここには9人しかおらぬ。ガンダルフはどこに?」

 ケレボルンが尋ねる。誰も何も言わない中口を開いたのはガラドリエルだった。

「灰色のガンダルフはこの地に足を踏み入れてはいません。闇の中に落ちました。」
「彼は、火と影の両方に囚われました。モルゴスのバルログに。モリアを通過したのが間違いです。」
「ガンダルフの判断に間違いなどありません。真意はわかりませんが。ですから、心を悲しみで満たすのはおやめなさい、グローインの息子ギムリ。今やこの世は悲しみに溢れ、人々の愛は悲しみと入り混じっているのです。」

 少なからずガンダルフの死について責任を感じていたギムリはガラドリエルのその言葉に心救われる思いがした。また先ほどまで魔女だなんだと言っていた相手、ましてやエルフがドワーフである自分に優しい眼差しと言葉をかけてくれたことに驚いた。

「旅の仲間はどうなるのだろうか。ガンダルフを失った今、望みは絶たれた。」
「この旅は薄いはの上を渡るようなもの。少しでも足を踏み外せば、皆奈落に落ちる。しかし任務を果たす気があるのなら、まだ望みはあります。ひとまず心配事は忘れ、疲れを癒しなさい。」

 そう言うと、ガラドリエルはフロドへゆっくりと視線を移し、心の声で彼に言った。

『そなたを歓迎します、ホビット庄のフロド。かの瞳を見た者よ!』









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 夜のカラス・ガラゾンにガンダルフを悼む歌が静かに響く。ピピンはレゴラスに歌の意味を聞こうとしたが、悲しむが増すだけだとレゴラスは教えなかった。エレンミアも正直この時だけはエルフ語がわからなければ良かったと思った。サムの即興の詩を聞きながら荷物を整理していると、再びハルディアがやってくる。

「エレンミア、奥方が呼んでいる」
「え?」
「話があるらしい。来い」

 レゴラスに奥方に会いに行くことを伝え、再びマルローン樹の階段を登る。今度は宮殿の中にある応接間に案内された。そこでは既にガラドリエルが待っておりエレンミアを見るとにこりと微笑みハルディアを下がらせた。促され椅子に座る。
          
「疲れているところごめんなさい。どうしても話したいことがあって、そなたを呼びました。」
「お気になさらず。」
「話したいことは一つです。何故、貴女はこの旅に参加したのですか?」

 どくん、と心臓が跳ねたような気がした。しかしエレンミアは表情を変えず口を開いた。

「力の指輪に最も関係あるフェアノール一族の一員として、事の終わりを見届けるためです。」
「・・・・・・本当にそれだけ?」
「・・・・・・私から、父と二人の母を奪ったサウロンへの復讐の為でもあります。」

 両親、そして実の子供のように愛してくれた養母ケレブリアン。オークに家族を奪われた者は中つ国中にいる。ケレブリアンも西に渡っただけで死んだわけではないが、裂け谷の一員にとって、エレンミアにとって彼女がオークに心身を傷つけられ中つ国を去った事は耐え難い苦痛だった。もし彼女が襲われず、もしくは中つ国を去っていなければ、今自分はここにいないかもしれない。

「貴女の事は娘夫婦からもよく聞いていますから、サウロンを恨む気持ちは十分わかります。力の指輪の事も、流れる血がそうさせるのでしょう。ですがそれすらも貴女の本心を隠す為の理由にすぎない。」
「・・・・・・っ」
「教えてください。貴女が、この旅に参加した理由と本心を。」

 

                                                                                                                                                                                        


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