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帰郷


 ガンダルフが死んだ。その事実は旅の仲間の心に大きな傷と衝撃を与えた。旅の仲間の中で一番ガンダルフに懐いていたホビット達は、ただただ涙を流していた。レゴラスは初めて触れた「仲間の死」に戸惑い呆然と立ち尽くし、エレンミアは力なく座り込み、ボロミアは坑道に戻ろうとするギムリを必死に抑えつけていた。そのなかでもアラゴルンはひどく冷静な態度をしていた。

「レゴラス、ボロミア、皆を立たせろ」
「っ、少しは休ませてやれ!!たった今逃げ切ったばかりだぞ!!」
「日暮れと共にオークが坑道から這い出てくる。その前にロスローリエンへ入る。あそこなら安全だ」

 反論したいが、ここはアラゴルンの言う通りだ。苦い顔をしながらも2人は皆を立たせ始める。エレンミアもなんとか立ち上がった。
 残るはフロドなのだが、姿が見えない。辺りを見渡すとふらふらと何処かへ歩く姿が見え、アラゴルンは慌てて呼び止める。足を止め、振り返ったフロドは悲しみと疑問の混じった表情をしていた。

「出発するぞ」
「・・・・・・はい」

 力ない答えが返ってくる。その様子を見ながら、エレンミアも再び胸が苦しくなるのを感じた。他のホビットもそうだが、一番彼に懐いていたのはフロドだ。だがアラゴルンもガンダルフとの親交は深かった。彼も相当なショックを受けているだろう。武器で戦うことができてもこんな時どう声をかけたらいいのか分からない自分に、エレンミアは嫌悪感を抱いた。
 おぼろ谷口からロスローリエンまではかなり距離があった。時折休憩を入れながらも9人は歩き続け、日が傾きかけ始めた頃ようやく森の入り口に立つことができた。久しぶりに踏む故郷の土に懐かしさを覚えながら歩いていると、先頭を歩くアラゴルンがなんとなくふらついていることに気がついた。

「アラゴルン、気分でも悪いのか?」
「え?」
「足がふらついている」
「気のせいだろう。私は大丈夫だ」

 どう見ても大丈夫そうに見えないその様子に、エレンミアは不安を覚えた。しかし彼自身がそう言うなら、もしかしたら自分の考えすぎかもしれない。大人しく引き下がり歩いていると、後ろからギムリがホビット達にこの森には魔女がいるから気をつけろと言う声が聞こえてくる。誰のことを指しているのかはすぐに分かったが、エレンミア自身もできれば会いたくないと思った。一応親戚同士ではあるが、どうも雰囲気が苦手だ。少しでも気を紛らわそうとマルローン樹の花を見上げようとしたその時、いきなり鼻先に鏃が現れ、目の前には国境警備隊のエルフがいた。レゴラスは弓に矢をつがえているが、エレンミアは抜刀せず敵意がないことを示した。

「随分物騒な出迎えだな。ハルディア」

 エレンミアが言うと、エルフたちの隙間から警備隊長のハルディアが姿を表す。

「このご時世だからな。同族といえど、侵入者には同じ出迎えをしている」
「奥方に会いたい。どうか案内してくれ」
「それを決めるのは私ではない。まずは詰所へ」

 ハルディアが部下に合図し、9人は警備隊の詰所へ連れて行かれた。到着して部下たちが離れると、ハルディアはかしこまりエルフ語で挨拶をした。

「Mae govannen, Legolas Thranduilion. ( ようこそ、スランドゥイルの息子レゴラス)」
「Govannas vîn gwennen le, Haldir o Lórien.(我々の力になってくれ。ロスローリエンのハルディア)」 

 レゴラスとの挨拶が終わると、ハルディアはアラゴルンに視線を移し彼にも挨拶した。

「A, Aragorn in Dúnedain istannen le ammen.(ああ、ドゥネダインの長アラゴルンよ。貴方のことは聞き及んでいる)」
「光栄だ」
「ええい、何を言っているのかさっぱりだ!!俺たちにもわかる言葉で話してくれ!!」

 ギムリが抗議の声を上げると、ハルディアは彼を一瞥し冷たい視線を向けた。

「ドワーフとは、暗黒の時代以降付き合いがないのでな」
「ふん、だったらこれがドワーフ語で何て言ってるか分かるか?'' Ishkhaqwi ai durugnul ''」

 あまりに口汚い言葉にアラゴルンが注意する。ハルディアも意味はわからなくても失礼なことを言われたことだけは理解したようで、怪訝な顔をした。

「とにかく、奥方の許可なく通すわけにはいかない。君達はこの森に大きな悪を持ち込んだ」

 その悪が何を指すのか、言われなくても皆分かった。アラゴルンが必死にハルディアを説得しているなか、フロドは未だガンダルフの死を受け止めきれずにいた。周囲の仲間もフロドのことを気にかけている。
 自分一人が悲しいわけではない、ショックを受けているのは皆同じだと自分に言い聞かせていると、それを察したボロミアが慰めるようとした。その時、話し合いが終わったのかハルディアが皆についてくるよう言う。タイミングを逃したボロミアは肩にぽん、と手を置くと、仲間の後について行った。


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