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ドゥリンの禍


 ほとんどのオークを倒し、厄介な敵はトロルだけとなった。刀から短剣に武器を変えて戦っていたエレンミアは顔に付いたオークの血を手で拭った。空間が狭いせいか血の匂いが辺りに充満している。なるべく吸い込みすぎないようにしているが、空気の流れが悪いせいで一向に良くなる気がしない。
 突然、幼い頃の記憶が蘇る。
 薄暗い森とオークの唸り声。父の名を呼ぶ母、地面に広がる赤い血。父が斬り伏せたオークと両親の血。

「っ・・・・・・!!!!」

 湧き上がる気持ちから逃げようと短剣を振るい、オークの首を撥ねる。早くこのオークたちを全て倒さなくては。前方と後方からオークが数匹固まって襲ってくる。挟み撃ちで殺す気なのだろう。エレンミアは短剣を仕舞うと刀を再び構えた。ぎりぎりまで引きつけようと待っていると、背後から剣が振り下ろされる気配がしエレンミアは慌てて刀を振るい切り伏せる。続けて前にいたオークが斬りかかり、振り返ろうとした瞬間オークの首が地面に転がった。

「ボロミア・・・・・・」
「一人で引きつけ過ぎだ」
「すまない。助かった」

 短剣を握り直し、トロルから必死に逃げるホビット三人の元に向かおうとしたエレンミアの目に、気絶したアラゴルンが映る。真っ先に助けるべきなのはフロドだが、動かないアラゴルンも気掛かりだ。

「エレンミア、アラゴルンの方は私が行く。だからフロドの元へ」

 しばらく悩んだ後、小さく頷き、フロドの元へ行く。エルフの剣ならあの肌に傷をつけて彼から気をそらすことも可能だろう。肩に狙いを定め、放とうとしたその時。
 トロルが握っていた黒い槍が突き出され、壁に追い詰められたフロドが呻き声を漏らした。それに奥で戦っていたガンダルフも振り返り、上に避難していたメリーとピピンはショックを露わにしている。そして、フロドがどさりと地面に伏すと二人はトロルに飛び乗ろうとするが失敗し、ピピンは足を掴まれ宙釣りになった。口を大きく広げて咬みつこうとした時、レゴラスがすかざず矢を放つ。矢は胸に見事刺さり、暴れていたトロルは地面に倒れた。
 目を覚ましたアラゴルンがフロドの元に行き体を起こさせると、彼は大きく息を吐き出した。

「生きてる・・・・・・」
「大丈夫。怪我もない」
「そんなまさか・・・・・・。あの槍の一突き、死んでいてもおかしくないはずだ」

 皆が信じられないという表情をしていると、フロドの着ていたシャツの下に白銀に輝く鎖帷子が見えた。裂け谷を出発する前、ビルボがつらぬき丸と一緒にフロドに渡したミスリルの鎖帷子だ。ギムリが心底驚いたという顔をしていると、扉の向こうから再びオークたちの声が聞こえた。

「安心するのは後じゃ、急いでカザド=ドゥムの橋へ!!」

 10人はマザルブルの間を出た。皆全力で走ったが、オークは後ろからだけでなく左右や天井の穴から迫ってきてあっという間に囲まれてしまう。歯を鳴らしたり声を出したりして威嚇するオークにギムリも低いうなり声を出して応戦した。この数を相手に戦わなければいけないのかと皆が覚悟を決めていると、いきなり奥の方から咆哮が響く。それを聞いたオークたちはたちまちおびえ始め、悲鳴のような声を上げながら消えていった。続いて響く咆哮に、姿の見えない敵に10人は底知れない恐怖を感じた。

「今度はなんの化け物だ・・・・・・」
「・・・・・・バルログじゃ。古代に生まれた悪鬼。お主らでは相手にならん、逃げるぞ!!!!」

 ガンダルフの気迫に押され、一行は再び走り出した。


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