Never Change | ナノ

水中の監視者


 山を降り、モリアの壁が見えてきた頃には既に日は沈んでいた。ガンダルフによると扉は普段隠されており、月光に照らされなければ現れないうえに合言葉がなければ領主ですら開けることができないという。
 しかしエレンミアは扉とは別の不安を抱きながら歩いていた。ここは危険な場所だ。無意識のうちに手が腰の刀に行く。

「どうしたエレンミア」
「・・・・・・何かいる。暗くて見えないが、私たちの近くに」

 右を歩くアラゴルンも同じなのか、辺りを警戒している。しかし一行が砂利道を踏みしめる音以外はしないため、気の負いすぎかと思い始めた頃、雲が薄れ月の光が岩壁を照らした。
 イシルディンで描かれたドゥリンの王冠と鉄床、上のエルフの二本の木、フェアノール王家の七つの星が現れる。

「Ennyn Durin Aran Moria, pedo mellon a minno. Im Narvi hain echant, Celebrimbor o Eregion teithant i thiw hin. ・・・・・・ドゥリンの扉、モリアの領主。唱よ友、そして入れ。エレギオンの主ケレブリンボールこれを描きぬ、か」
「どういう意味?」
「簡単じゃ。友なら合言葉を言えば中に入れる」

 ガンダルフがエルフ語の合言葉を口にする。しかしそれは外れたのか、扉は開かない。
二つ目の合言葉を口にするがやはり開かず、ううむと若干困ったような声を出した後三つ目の合言葉を口に出したがまたしても扉は開かなかった。

「何も起きないね」

 試しに手で押してみたり体を押しつけてみたりするが、岩の扉は全く開かない。

「昔はエルフ語、ドワーフ語、オーク共の言葉の呪文すべてを覚えておったんじゃが・・・・・・」
「今は違うの?」
「お前さんの頭をこの扉にぶつけて開けてみよペレグリン・トゥック!!でなければ口を閉じておれ!!合言葉を探しておるのじゃから」

 黙り込むピピン。ガンダルフが合言葉を思い出している間各々時間を潰していると、ぼちゃんと何かが水の中に落ちる音がした。エレンミアがそちらをみると暇を持て余したメリーとピピンがすぐそばにある湖に石を投げている。それだけなら良いのだが、石が投げられた後何かが水面下を動いたような気配がして、エレンミアは消えかけていた不安が戻るのを感じた。続けて石を投げ込もうとするメリーの手をアラゴルンが止める。

「やめろ。危険だ」
「お、おう・・・・・・」

 アラゴルンの気迫に隣にいたピピンも石投げを止める。まだ合言葉を見つけられないガンダルフの側にいたフロドは扉に彫られた文の意味を頭の中で繰り返し考えていた。

「(友なら合言葉を言えば中に入ることができる。友なら・・・・・・、友なら・・・・・・)」

 合言葉がなければ領主ですら開けることができない扉。唱えよ、友。

「・・・・・・ガンダルフ、エルフ語で友達はなんて言うの?」
「ん?''mellon''」

 その瞬間。固く閉ざされていた扉が重たい音を立てながらゆっくりと開いた。ガンダルフに続いてギムリ、レゴラス、ボロミアと中に入っていく。

「すぐにもてなし好きのドワーフ達が現れるぜ、エルフの兄ちゃんよ。燃え盛る篝火、麦芽のビール、そして肉汁滴る骨付き肉!!我が一族バーリンの住処だ。人々はここを坑道と呼ぶ」
「ここは坑道じゃない。・・・・・・墓場だ」

 杖の石に照らされ、無数の白骨死体が現れる。それはどこからどう見てもここにいたドワーフたちのもので、多くは頭に兜をかぶり手には斧や剣を持っていた。あまりの惨状に、同族たちの死体にギムリは悲痛の叫びをあげる。死体に刺さった矢を引き抜き、レゴラスがオークの仕業であると気付くと、皆剣を抜いた。

「ローハンの谷へ行こう。こんな場所来るんじゃなかった」

 その時。先ほどまで水面下を動いていた生物は、獲物の足を絡め取りこちらに引きずり込もうと岸に近づいてきていた。獲物はまだ自分に気づいていない。
 
「皆早くここを出るんだ!!早く!!」

 そうだ、こちらへ来い。こちらへ来い。

「うわあ!!!!」
「フロド!!」

 メリーとピピンの声に全員振り返る。するとさっきまで入り口付近にいたホビットのうちフロドだけが消えていて、メリーとピピンは何かを追って外に出ていた。助けを求める声がして外に出てみると、水中から何本もの太い触手がフロドの足に絡みつき宙に持ち上げている。
 急いで三人で斬りかかるが触手の数が思った以上に多いのと、斬ることができてもすぐに別の触手がフロドを捕まえるためきりが無い。エレンミアもフロドを助けようと奮闘するが、攻撃を避けるのと

「エレンミア!!」

 名前を呼ばれ、ハッとするが時すでに遅し。一本がエレンミアの足首に絡みつき、そのまま岩壁に叩きつけられた。気を失ったのか、エレンミアは地面に倒れそのまま起きない。
 そして、フロドを捕らえている触手がぐんと下に降りフロドを水に近づけたかと思うと、水中から触手の本体である怪物が現れ口を開いた。
 今だ。アラゴルンはより深い場所に行くとその触手を剣で切り裂き、ボロミアがフロドを受け止める。エレンミアを回収し全員中に引き返し、レゴラスがその顔に矢を放つも怪物は追ってきて、終いには捕食するのを諦めたのか全員が中まで入ると入口の岩壁を壊し塞いでしまった。
 皆がこれからどうすればと迷っていると、ガンダルフは再び石に光を灯し言った。

「これで進むべき道は一つになってしまった。このままこの坑道を抜けるしかない」
「どれぐらいかかる?」
「少なくとも4日は。皆儂から離れるな」

 足を進める一行。アラゴルンは気絶したままのエレンミアを抱え直し、後に続いた。


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