Never Change | ナノ

エレギオン


 休憩地のエレギオンで林檎を齧っていたエレンミアは近くから剣同士がぶつかり合う音を聞き、そちらの方を向いた。するとそこにはメリーとピピン相手に剣の扱い方を教えているボロミアとパイプを吸いながらアドバイスを送るアラゴルンの姿があった。

「いち、に、そうだ。ピピン、腕をもっと開け」
「わ、わ!」

 二人に怪我をさせないようボロミアが気を使っているのに気がつき、エレンミアはふと懐かしいものを見る目になる。
 昔アラゴルンがまだエステルだった時。まだ剣の扱いに慣れない幼子に間違っても怪我をさせないよう自分も気を使っていた。館に滞在している間は手合わせをよく頼まれたものだ。今では立派な野伏として剣だけでなく弓の腕も上がっているが、アラゴルンもあんな頃があったものだと懐かしくなる。

「ふふ」
「どうした?」
「いや、エステルと手合わせした時のことを思い出して。懐かしいな」
「よくそんな昔のことを覚えてるな・・・・・・」
「たった70数年前だろう?当然覚えてるよ」

 アラゴルンは自分がまだ幼かった頃の事などあまり覚えていないが、エレンミアはエルフだ。軽く千年以上生きている彼女にとってはほんの数日前のような感覚なのだろう。
 3人を見守るアラゴルンとエレンミア。その後ろでギムリはガンダルフにこんな道のりはとんだ遠回りだと訴えていた。

「ガンダルフ、モリアを抜けていこう。あそこには親戚のバーリンもいるし安全だ。物資も補給出来るだろうよ」
「モリアは余程の事がない限り通らん。この道が一番安全なのだよ。急がば回れ、じゃ」

 提案を却下され、ギムリは面白くないといった表情でその場に座り込んだ。すると、先程までわけもなく周囲を眺めていたレゴラスが遠くの空をじっと見つめる。その視線の先には黒い何かの大群があった。

「あれは何です?」
「何、ただの雲だろう」
「すごい速さでこちらに来ている」

 全員が黒いそれを見つめる。ボロミアの言う通り、とてつもない速さでその大群は一向に近づいてきていた。その正体が何かを認識したレゴラスが叫ぶ。

「焦げ茶の国から来たクレバインだ!!」
「皆んな隠れろ!!」
「急げ!!」

 低木の下や岩の隙間などに各々隠れる。エレンミアも隠れようとその場から動こうとした瞬間ボロミアに腕を引かれ、彼と共に低木の下へ隠れた。バサバサバサッと大きな音を立てながら、クレバインの群れが上空を通過していく。しばらく息を凝らしているとだんだん音は遠ざかり、完全に通り去った後隠れた場所から皆這い出た。

「サルマンのスパイじゃ・・・・・・。南を通る者は皆奴らに見張られている。カラズラスの峠を進もう」

 ガンダルフがそう言い、皆が出発の準備をしている中、ボロミアがエレンミアに話しかける。

「先程はすまない、いきなり引っ張ってしまった。怪我はないか?」
「大丈夫だ。それよりボロミア、頭に葉っぱが付いている」

 取るよ、とエレンミアが手を頭に伸ばすが届かない。なんとか葉っぱを取ろうとする様子が面白くてボロミアはくすくすと笑いながらエレンミアを少し持ち上げた。

「うわっ」
「これで取れるだろう?」
「・・・・・・ここまでしなくてもいい」

 葉っぱを取ったのを確認しエレンミアを地面に下ろしてやると、ボロミアはいきなり鋭い視線が自分に向けられている事に気がつく。視線が送られてくる先では、あのイシルドゥアの末裔が獣の瞳をしてこちらを見ていた。まるで、それは私のものだから触るなといった雰囲気で。

「(何なんだ一体・・・・・・。エレンミアはお前の恋人というわけではないだろう)」

 暫く視線が絡み合ったが、盾を担ぐとボロミアはすぐに仲間の後に続いた。


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