Never Change | ナノ

秘密


 全身が温かい湯に包まれ、エレンミアは全身から疲れが取れていくような気がした。やはり川の水より温かい湯のほうが断然いい。星空を眺めながらリラックスしていると、エレンミアは晩餐の夜のことを思い出し、草むらの向こうで見張りをするアラゴルンに話しかけた。

「なぁ、アラゴルン。晩餐の夜起こしに来てくれたけど、よく場所覚えてたな」
「実は私もたまに足を運んでいたんだ。秘密の場所だったらしいのにすまない」

 幼い頃ー・・・・・・と言っても12くらいの時だが、エルラダンに剣術で負かされて悔しい思いを抱えたまま歩いていたら、いつの間にかあの場所へ迷い込んでしまった。すぐにエレンミアが現れて部屋まで送ってくれたが、何となくあの場所が気になって何度か探しに行き、道も覚えた。
 あの東屋でエレンミアが唄を口ずさんでいるのを目にした事がある。彼女が作ったのか聞き覚えのないそれはどこかもの悲しげで、エレンミアの表情も同じな気がした。普段の快活な雰囲気からは想像できないその様子に、何か悩みがあるのかと聞いてみたかったが当時は東屋にこっそりと来ていたため、一歩を踏み出す事ができなかった。
 思えば、あの時から自分はエレンミアを意識し始めていたのだろう。何か力になりたい。支えたい。エレンミアを悩ませ、悲しませているものを取り除きたい。それが、今のエレンミアを想う気持ちに繋がっているのだ。

「別にいいよ。知られてたのは少し残念だけどな」

 湯から出て体を拭く。服を着ながら、エレンミアは自分がアラゴルンに話していない本当の秘密だけはまだ知られるわけにはいかないなと考えた。もし知ったら、流石の彼でも自分に想いを向けることはなくなるだろう。戦いの中でいずれ知られる事になるかもしれないが、今だけは何としても隠しておかねば。
 ブーツまで履き終わり交代を告げようと草むらを越えると、アラゴルンは片手で顔を覆っていた。

「どうした?」
「い、いや。なんでもない」

 いそいそと温泉へ向かうアラゴルン。少し不自然に思ったが、エレンミアは見張りをすべくその場に座り込んだ。







+ + + + + +








 二人が湯浴みから戻ると、レゴラス以外の全員は既に眠りについていた。エレンミアも体が温まっているせいかすぐにウトウトし始め、暫くするとすやすやと寝息を立てて眠ってしまった。いくら風邪や病気に縁がないとはいえ湯浴み直後に眠ってしまっては体を冷やすだろうと思いマントをエレンミアにマントをかけると、アラゴルンはパイプを取り出し一服した。

「ちゃんと見張りできたかい?」
「当然だ」
「ならいいや。顔が真っ赤だから心配したよ」

 その言葉にアラゴルンが思わずむせる。

「・・・・・・まさか、覗いてないよね?」
「わ、わざとではないぞ!!着替え終わったかと思って、その・・・・・・、振り返ったら・・・・・・」
「見えちゃったってわけか」

 エレンミアにはバレていないようだからいいが、もしあの時気づかれていたら頬に手形ができていただろう。弁解すれば分かってくれる気もしないでもないが、これは黙っているのが賢い選択だ。

「まあ、エレンミアも相手が君ならそこまで怒らないと思うよ」
「それは良い意味で受け取って良いのか?」
「たぶん。エレンミアがアラゴルンを好きなんて一目瞭然だし、第一気づかれてないんだから」

 明るくそう言い放つ親友にアラゴルンは嬉しい気持ちが湧き上がるのを感じた。

「・・・・・・レゴラス、お前はエレンミアの過去や出生について何か知らないか?」
「知ってることは知ってるけど、どうかした?」
「湯浴みに行く前、エレンミアは自分が力の指輪と関係があると言ったんだ。それが少し引っかかって・・・・・・」
「本人がそう言ったならそれは事実だろうけど、私たちは話してもらえるのを待つしかないんじゃないかな」
「・・・・・・」

 確かにあまり詮索するのは良くない。ここはレゴラスの言う通り、エレンミアがいつか話してくれるのを待つしかないだろう。早くその日が来るのを願いながら、アラゴルンはパイプを吸った。


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