Never Change | ナノ

出発


 翌朝。アラゴルンは皆より一足先に出立の準備を済ませると館の奥にある母ギルラインの墓を訪れた。白磁で出来た墓には苔が生えていたり雨風によって落とされた葉が積もっていたりしている。それらを指で取り除き、アラゴルンは母に似せて作られたであろう女性像の顔に触れた。
 母が亡くなったのは裂け谷ではない。だがこの館の中にあったほうが訪れやすいだろうというエルロンドの計らいによってここに建てられた。

「Anirne hene beriad i chên în. Ned Imladris nauthant e le beriathar aen." (母君はお前を守りたかったのだ。この裂け谷なら安全だと思ったのだろう。)運命から逃れられないことも知っていた」

 静かに背後からエルロンドが現れた。アラゴルンは何も言わず、ただ聞いている。

「かの剣は裂け谷でも鍛え治せる。だが、それを扱えるのはただ一人しかおらん」
「私はそんな力を望みません。まして欲しいと思ったこともない」
「アラゴルン、お前は王の血を継ぐ最後の者だ」
「・・・・・・」
「・・・・・・、エレンミアを頼んだ。あの子は助けを求めるということを知らぬ」
「はい」

 指輪所持者を守るのが自分にとって第一の仕事だが、正直言って彼女が一番心配だ。それに、戦い方だけでなく迷子にならないよう気を配ることも欠かせない。アラゴルンがその場を離れようとすると、エルロンドが引き留める。
 
「それともう一つ、お前に言わねばならんことがある」








+ + + + + + + +




 エレンミアが集合場所に行くと既に全員が集まっていた。ほぼ全員裂け谷に来るまでと同じ格好をしているが、フロドだけは腰に新しい剣を指している。おそらくビルボが与えたのだろう。昔彼が裂け谷を訪れた際、同じ剣を持っていた気がする。アラゴルンの隣に並ぶと、見送りのエルフたちと共にエルロンドが現れた。その少し後ろには綺麗な格好をしたアルウェンも立っている。

「指輪所持者は滅びの山まで行き、火口に指輪を投じるまでが任務だ。だがそれに付いて行く者はいかなる誓言や責任にとらわれることはない。・・・・・・さらばだ、各々役目を果たすがよい。エルフや人間、すべての自由の民の祝福がそなたらの道と共にあらんことを」
 ガンダルフに促されフロドはゆっくりと体の向きを石門に向け、進み出す。

「ガンダルフ、モルドールがある方向は右?それとも左?」
「左じゃよ」

 二人を先頭にそれぞれ門をくぐっていく。エレンミアもそれに続こうとして、一度だけ後ろを振り返った。見送りのエルフの中で、アルウェンが瞳を濡らしながらこちらを見ている。僅かな間だが視線を交わし必ず生きて帰るからと言うと、エレンミアは指輪を捨てる旅に出発した。


prev / next

[ list top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -