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執政家とイシルドゥアの末裔


  指輪の処遇が決まり、出立は明朝。それまで各々鋭気を養うことになりエレンミアは一人館の奥にある秘密の休憩場所に向かった。
 白樺の木に囲まれ、中心には小さな東屋が建っている。幼い時はよくここに来て空想にふけったり夜中部屋を抜け出して星を眺めたりしていた。この場所は自分と今は西にいる養母しか知らない。昔まだエステルだった頃のアラゴルンがここに迷い込んでしまったことがあるが、もう忘れているだろう。
 静かな時間が心地よくてエレンミアは横になった。このまま晩餐の時間まで寝てしまおうか。しかし寝てしまえばドレスに皺ができてしまう。義姉さんに怒られてしまうな、とぼんやり考えていると昨夜二人が橋の上で話してたことを思い出した。何を話しているのかは分からなかったが、二人の声を聞いた瞬間急にその場から離れたくなった。

「(まだ私は義姉さんに嫉妬してるんだな・・・・・・)」

 ルーシエン・ティヌーヴィエルの生き写しと称される彼女は誰が見ても美しい。彼も、アラゴルンも初めアルウェンを見た時は思わずティヌーヴィエルの名で呼んだそうだ。波打つような黒髪、穏やかな女性らしい性格、何でも上手にできる器用さを持ち合わせた彼女にエレンミアはいつも嫉妬してた。唯一同じものと言えば灰色の瞳のみ。それ以外は全て劣っている。
 アラゴルンとアルウェンが並ぶと、遠い昔にいたベレンとルーシエンが蘇ったのではないかと考えるほど似合いの二人だ。彼らの近くにいると、心を締め付けられる。一度アルウェンに冗談ぽく好きなのか聞いたことがあったが、彼女は優しく微笑んで首を振った。アラゴルンから想いを告げられた時、嬉しい気持ちになるのと同時に姉と自分を比較してしまい、貴方に私は釣り合わないと言って断ってしまった。最も断った本当の理由は別にあるのだが、その時はそれだけ言ってその場を離れた。

「何してるんだ私は・・・・・・」

 やはり少し眠ろう。このまま考えていても変にもやもやしたまま晩餐に行くことになりそうだ。









 + + + + + + +











「エレンミア、エレンミア」

 体を揺すぶられ、エレンミアは目を覚ました。辺りはすっかり藍色に染まり、星が瞬きはじめている。まずいと急いで体を起こすと目の前にはアラゴルンが立っていた。

「起きろ。晩餐の用意ができたらしい」
「なんでここが分かったんだ?」
「部屋にいなかったからエレンミアならここに来るだろうと思ってな」
「・・・・・・そうか」
「どうした?」
「なんでもない」

 ドレスを着替える時間はもうないため、皺を伸ばしてそのまま二人で晩餐会場に行くと長いテーブルにエルロンドと旅の仲間が付いていた。アラゴルンとエレンミアがつくとエルロンドが音頭を取り、皆で盃を交わす。久しぶりに飲む酒の味を楽しんでいると、隣に座っているボロミアがジッとアラゴルンを見ていることに気がつきエレンミアは声をかけた。

「そんなに信じられないか?」
「ああ・・・・・・」
「無理もないよ。アラゴルンも王家の末裔としてより北方の野伏達の長として生きてきたから」
「エレンミアは彼と親しいのか?」
「まぁな。因みに私がボロミアと会った時も一緒にいたぞ」

 エレンミアの言葉にボロミアが本気で驚いた顔をする。確かにあの時全身黒づくめの怪しげな男はいたが、まさか彼だったとは。

「これから暫く一緒に旅をするんだ。今は執政家嫡男としてじゃなく、仲間として仲良くしてもいいと思うよ」
「・・・・・・」

 せっかく一緒に旅をする機会ができたのだ。互いの仲が少しでも良くなればと思いながら、エレンミアは酒を飲んだ。


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