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温泉


 ガンダルフが考えた旅の道順は霧降山脈の西側を40日間歩きローハン谷を越え、東に進路を移してモルドールに入るという至ってシンプルなものだった。
 裂け谷を出て数日。日暮れになり、野営を張ってアラゴルンとレゴラスが狩りから戻るのを待っていると火を起こそうとしていたエレンミアの元にフロドがやってくる。

「あの、エレンミアさん」
「何だ?」
「私を裂け谷まで送り届けてくださりありがとうございました。もっと早くに言うつもりだったんですけど、なかなか言いに来れなくて」
「気にしないでいいよ。とにかく無事で良かった。それと、さん付けはよしてくれ。私も名前で呼ばせてもらうから」

 にっこりと笑うフロドにエレンミアは一瞬母性本能のようなものを擽られた。彼だけではない。年齢を考えれば子供ではないのだろうが、ホビット全員のちょこちょことした動きを見るたび一種のトキメキを感じる。
 と同時に、こんな小さな者に中国最大の重荷を背負わせてしまっているのかと思うと申し訳ない気持ちになった。直接の原因ではないにせよ、力の指輪は全て自分の血筋に関係がある。何としてもこの指輪所持者を滅びの山まで守らなければ。
 エレンミアがそう考えていると、隣にいきなり野兎の死体がどさりと置かれた。横には狩りから戻ってきたアラゴルンとレゴラスがいる。

「おかえり」
「ただいま。・・・・・・どうした?」
「え?」
「落ち込んだ顔をしている」

 知らず知らずのうちに出ていたのだろう。エレンミアは慌てて取り繕い、何でもないよと言って兎をさばいた。調理はサムに任せて出来上がりを待っていると、アラゴルンが隣に座る。

「無理に話せとは言わない。だが吐き出した方が良いこともあるぞ」
「・・・・・・ホビットに指輪の重荷を背負わせてしまったことが、申し訳なくてな」
「それはエレンミアのせいではないだろう」
「直接じゃなくても、私はあの指輪に関係がある」

 一つの指輪に関係がある?
 それはどういうことかアラゴルンが聞こうとすると、後ろからメリーとピピンを叱るガンダルフの声が聞こえてきた。

「一体どこまで行っていたんじゃ!!」
「ちょっと奥まで。ほら、見てよたくさん拾ってきた」

 二人の腕には何十本もの枯れ枝が積まれている。パッと見るだけでも二人がかなり奥まで拾いに行ったことが分かった。

「全く・・・・・・」
「あ、あと僕すごいもの見つけたんだよ」
「すごいもの?」
「大っきな温泉さ!!薪を拾った近くだ」

 温泉。その単語にエレンミアが反応する。旅となれば滅多に湯浴みをすることはできない。恐らくこの先も温泉が見つかるなんてことはそうそう無いだろう。皆も同じ意見なのか、あっという間に夕食後湯浴みをすることになった。
 サムが作った夕食を腹に収めて暫くすると、エレンミア以外は早速温泉へ向かう準備を始める。まずはホビット二人とギムリ、ガンダルフの四人。残りの5人で周囲の見張りをということになったが、それでは後から入るエレンミアは周囲の見張り無しで入ることになる。

「私なら何かあっても大丈夫だから気にするな」
「しかし今は夜だ。オークが出ないとも限らんぞ」
「大丈夫ったら大丈夫だ」

 頑なに見張りをつけることを拒否するエレンミア。大体理由は察することができるが、ボロミアの懸念も最もだ。両者一歩も譲らずにいると、レゴラスが そうだ!と手を叩く。

「エレンミアが一番信頼できる者に見張りを任せるのはどうだろう」
「一番信頼できる者?」

 そうとなればかなり絞られてくる。見張りをするのだから武術にも長けている必要があるし、ホビット達はまず対象外だ。ガンダルフは万が一の時のため彼らのそばにいた方が良い。すると残るはアラゴルン、レゴラス、ボロミアとギムリのみ。更にその中で信頼できる者となれば、ギムリは恐らく除外される。
 微かな希望をボロミアは抱いたが、エレンミアが渋々と言った様子で指名したのは彼が将来仕えることになるであろうアラゴルンだった。

「決まりだ。ほら、ギムリ早く行こう」
「気安く名前で呼ぶんじゃない!!」
「じゃあなんて呼べばいいのさ」
「フロド様、私たちも行きましょう」
「ああ」

 アラゴルンとエレンミアの二人を残し、8人は温泉があるという場所まで向かった。

「意外だな」
「何が?」
「エレンミアがまさか私を選ぶとは思っていなかった」
「・・・・・・アラゴルンなら、ちゃんと見張りに徹してくれると思ったから」
「ふうん。男は皆野獣だということを忘れないでほしいな。こう見えて、私も健全な男だ」
「変なことしたら父上に言いつけてやる」

 軽く冗談交じりに話すが、アラゴルンにも見張り中に絶対振り返らないと言い切る自信はなかった。だから指名された時も、嬉しい反面他の者を指名してくれと残念に思ったのが事実だ。
 しかし他の男・・・・・・特にエレンミアへ好意を抱いているだろうボロミアが指名されなくて良かったとホッとしている。自分でないならレゴラス当たりが一番いい。彼は自分がエレンミアを愛している事を充分知っているから不粋な事はしないはず。それにエルフは人間程欲は強くない。
 程なくして、全員がさっぱりとした様子で戻ってくる。

「行くかエレンミア」
「ああ」

 こうして、アラゴルンは自分の理性との戦いに赴いた。


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