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エルロンドの会議

 翌日。会議の開始が昼頃だと知ったエレンミアは参加を許可してもらおうとエルロンドを探していた。もし彼を見つけられなくともエレストールあたりを説得すればどうにかなりそうだが、やはり議長の許可を直接得ているほうが良いだろう。
 書斎にはすでにいなかったからもう会場にいるのだろうかと考えながら館の中を進んでいると、角を曲がったところで歩いてきたアラゴルンとぶつかりそうになった。

「卿を探しているのか?」
「そうだよ」
「ならその必要はない。卿から、エレンミアも会議に出席するよう伝えてくれと」
「・・・・・・お見通しだったか」
「私もこれから会場に向かう。一緒に行こう」

 こつ、こつ、こつ、と足音だけが二人の周りに響く。アラゴルンはちらりとエレンミアを見ると、服装次第でこれほど雰囲気が変わるとはと思った。今エレンミアは普段の旅装束ではなく彼女の髪色と同じ紅絹色のドレスを着ていて、活発な女性の雰囲気が醸し出されている。胸元には昔自分が贈った琥珀の首飾りが下がっていた。

「着けていてくれたんだな。その首飾り」
「・・・・・・義姉さんが着けろと」
「ありがたいな」

 話しているうちに会場に着き、各席に座る。間もなく参加者が出揃い、その中に指輪所持者だったフロドもいる事にエレンミアは驚いたが、何か考えがあるのだろうと無言で通す。そして銀のサークレットをはめ正装になったエルロンドも会場に到着し、
会議は始まった。

「遠来からの見知らぬ友よ、そして古き友。モルドールの脅威への対策を立てるため貴殿らは召集された。今や中つ国は窮地に立たされている。何者も逃れる事は出来ない。結束するか、闇に落ちるか。どの種族に属していようと辿る運命は同じ。・・・・・・フロド、指輪をここへ」

 全員の視線が向けられ、フロドはおずおずと立ち上がり指輪を中央の台座に置く。

「本当だったのか・・・・・・」

 ボロミアは小さな声で呟くと席から立ち上がり、周囲を見渡す。

「夢の中で、東の空が暗くなるのを見た。しかし西で薄い光が。泣いているような声で"運命は近づいた"と・・・・・・。イシルドゥアの禍は見出された」

 指輪に手を伸ばすボロミア。エルロンドは制止の声を上げたが彼はそのまま触れようとし、ガンダルフが黒の言葉を発しながら立ち上がった。雷鳴のような轟音と共に辺りが暗くなっていき、指輪もそれに重ねるように囁く。ガンダルフの声は次第に威圧感を増していき、その場にいたエルフはエレンミアを含め全員が苦痛を受けているような顔になり、他の者も椅子にしがみついた。詩が終わると、周囲は元の明るさを取り戻す。
 
「この裂け谷でかの言葉を耳にする事になるとは」
「許しは乞いませんぞエルロンド卿。だがこのままでは西の地でも黒の言葉が広く耳にすることになるだろう、一つの指輪は悪そのものじゃ」

 ガンダルフが席に戻ると、ボロミアはもう一度席から立ち上がって言った。

「贈り物だ、モルドールと戦うための!!俺の父・・・・・・ゴンドールの執政はモルドールの軍に抗い、我らゴンドール人の血で貴方がたの土地を守ってきた。敵の武器を逆手に取り、奴らを倒そうじゃないか!!!」
「指輪を扱うことなどできない、誰一人として。従うのは主であるサウロンのみだ」
「っ、野伏ごときに何がわかる!!」
「ただの野伏ではない!!彼はアラソルンの息子アラゴルン、貴方が忠誠を誓うべき相手だぞ」

 今まで黙って聞いていたレゴラスが勢いよく立ち上がり、ボロミアを睨みつけ強い口調で言う。

「アラゴルン・・・・・・?イシルドゥアの末裔か」
「ゴンドールの王位を継ぐ者だ!!」
「......Havo dad,Legolas(座れ、レゴラス)」

 友に促され、レゴラスは大人しく席に座り直す。だがボロミアはアラゴルンを見たまま動かない。

「ゴンドールに王はいない。・・・・・・王など必要ない」

 ようやくボロミアが席に着くと、エレンミアは表情を崩さないまま内心で「やはりこうなったか」と嘆息した。遅かれ早かれ彼の正体を知ることにはなったが、やはり失われた王家の末裔となれば執政家の者としては面白くないだろう。

「アラゴルンは正しい。サウロン以外誰も指輪は扱えん」
「我々がとるべき選択はただ一つ。指輪は滅ぼさねばならん」
「じゃあ、早速やろうじゃねえか」

 焦げ茶色の髪と髭をしたドワーフが台座に近寄り、斧を振り下ろす。しかし刃先が指輪に触れた途端、ドワーフは大きな力で弾き返され床にひっくり返った。台座の上には無傷の指輪と、砕けた斧の刃があった。

「私たちが持ついかなる武器でも指輪を破壊することはできん、グローインの息子ギムリよ。指輪は滅びの山の火で造られた。モルドールに潜入し、指輪が造られた火の中に投じる以外方法はない。するべきことは一つだ」
「・・・・・・モルドールへ潜入するだと?黒門を守っているのはオークだけではない、眠ることのない悪があの場所にはひしめき、そして奴の''目''が見張っている。不毛の大地、火が吹きあげ、灰と埃に覆われている。吸う空気も毒に満ちているのだ。一万の兵でも無理だ」
「エルロンド卿の言葉を聞いていなかったのか?指輪は葬らねばならない!!」
「じゃあお前なら出来るのか!?」

 ギムリがレゴラスに突っかかる。

「もし失敗したらどうする!!サウロンがそれを手にすれば全てが終わりだ!!」
「エルフに任せるぐらいなら死んだ方がマシだ!!」

 その言葉を境に、他のエルフ達が苛立ち立ち上がる。たちまち口喧嘩が始まり、それが連鎖し他の参加者も指輪の処遇に対して言い争いを始めた。エレンミアもたまらず立ち上がりとりあえずエルフとドワーフを引き剥がそうとするが、無論簡単にはいかない。終いにはガンダルフも参加し、もはや手がつけられなくなったその時、フロドが叫んだ。

「僕がやる、僕がモルドールへ行きます!!」

 小さき人の予想外な宣言に、その場にいた全員がぴたりと言い争いを止めた。ガンダルフは予感が当たってしまった、とも残念とも取れる表情を浮かべながら目を閉じる。

「僕が指輪を捨てにモルドールへ。・・・・・・行き方は、分からないけど」
「おぬし一人に重荷を背負わせはせん、フロド・バギンズ。儂も一緒に行こう」

 アラゴルンが椅子から立ち上がり、フロドに歩み寄ると彼の前に跪く。

「私も命を懸けて君を守ろう。この剣に誓って」
「では私は弓に」
「俺は斧だ!」
「・・・・・・我々すべての命運は君の肩にある。これが会議の決定だというなら、ゴンドールはその行く末を見届けよう」

 レゴラス、ギムリも加わるとボロミアも輪に加わる。エレンミアもまた立ち上がり、フロドの前に跪いた。

「私は女だから心強いとは言えないかもしれない。それでもこの刀にかけて、貴方を守るわ」

 養父は何も言わない。だが自分の選択を止める気はない事だけはわかった。さてこれで仲間は集まったかと全員が思った時、後ろの生垣からサムが出てきてフロドの隣に並ぶ。

「私もついていきます。だってフロド様がどこに居ようと私は付いて行かなくてはなりませんから」
「そうであろうな。何せ彼が召集された秘密会議に付いて来るのを阻止するのも難しいのだから。ではこの仲間で・・・・・・」
「おい待ってくれ!!俺たちも行く!!」

 これまた予想していなかったホビット二人の乱入にエルロンドはおもわず眉を寄せる。そんな事はお構いなしに、メリーとピピンはフロドの横に立った。

「どうしても行かせたくないなら、縄で体を縛って袋詰めにして家に送らなきゃならないぜ」
「ともかく、誰かしら賢い奴が必要さ。大事な旅なんだろ?」
「・・・・・・じゃあお前は対象外だピップ」

 ガンダルフがエルロンドに視線を送る。不安はあるが、この仲間達だったら目的を達成できるかもしれない。かすかにそう思ったエルロンドは10人を見まわして言った。

「10人の仲間達・・・・・・。よかろう。指輪が結ぶ、旅の仲間となれ」
「やったね。で、どこに行くんだ?」

 


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