Never Change | ナノ

前夜


「彼の体力は戻った。だがあの傷は彼を一生苦しめる。ホビットとは驚くべき種族だな。指輪を持ちながら悪の力に屈することなくこの裂け谷まで辿り着くとは」
「二度と彼にこんな苦痛は背負わせん」

 エルロンドの書斎で外を眺めながらガンダルフは言った。指輪を持っている事自体危険なのに、更には癒えない傷まで負わせてしまった。

「ガンダルフ、サウロンの軍が東で動き始めている。奴の目は裂け谷の上にある。サルマンまで寝返って見方はますます減ってしまった」
「裏切っただけではない。奴は人間とオークを妖術で掛け合わせ新たな兵力を生み出しておる。日が差す日中だろうが素早く動けるものをな。指輪を追って」

 オルサンクの塔の頂上に監禁されていた時、眼下に広がる大工房を見てガンダルフは戦慄を覚えた。サルマンは物を生み出す事や周囲の者を従わせる事に長けている。だからこそあそこまで大規模な工房を作れたのだろう。本来は倒すべき敵のために。或いは、自らの野望のために。

「エルフの力を持ってしてもモルドールとアイゼンガルドの軍隊には抗しきれん、ここに指輪は置けない。中つ国全体の危機だ。会議を開き対策を考えよう。エルフの時代はもはや終わりを迎え、我らに代わる味方を探さねばならん」
「・・・・・・人間じゃ」

 ガンダルフの答えにエルロンドは額に皺を寄せる。

「人間は弱い。ヌメノールの力が衰えて久しく、今や誇りも失われた。今現在指輪が存在するのも人間のせいなのだ」
「・・・・・・」
「あの日、滅びの山で死ぬべきだった悪は生きながらえイシルドゥアは指輪を持ち続けた。そして死に、その後指導者と力を失った人間たちは散り散りになったのだ」
「一人、まだゴンドールの王座に就くべき者が生きておる」
「彼は遥か昔にその道を捨てた。今や流浪の身」







+ + + + + + + 








 その日の夜。エルロンドとガンダルフの話を偶然聞いてしまったエレンミアは中庭の椅子に座りながら今後自分がどうするか考えていた。とりあえず指輪所持者を館まで連れてくることに関しては完遂することができた。近いうちに各種族の代表を集めた会議があるならそこに参加して、指輪の処遇次第で身の振り方を決めよう。また諸国遍歴の旅をするか、それとも久しぶりに暫く裂け谷に滞在するかは会議の後にでも考えればいい。
 なんとなく部屋に帰る気にならずぼんやりと夜空を見上げていると、いかにも裕福な家の出と思われる男が横を通る。何気なくそちらに視線を移すと、 男もこちらを向き ん? という表情をした。

「見間違えだったらすまない。もしかして貴女は・・・・・・エレンミアか?」
「そうですが、貴方は?」
「ゴンドール執政家の嫡男ボロミアだ」
「・・・・・・ボロミア!?」

 そうだ。どこかで見覚えがあると思っていたらボロミアだ。昔アラゴルンと一緒に旅をしている途中に会った時はまだ青年だったせいかすぐにはわからなかったエレンミアは驚きの表情を浮かべる。

「そこまで驚かなくてもいいだろう。それに、あれからもう20年経ったのだから外見が変わっていてもおかしくない」
「まあな。だけどボロミアがこの館にいるとは思っていなかったよ」
「会議にゴンドールも召集されたんだ。ここには父上の名代として来た」
「座るか?」
「ああ」

 二人でこれまでのことを語らう。初めはお互いのことについてだったが、次第に話の流れは中つ国と闇の勢力についての内容になる。モルドールの影がゴンドールに迫っていること、各地でオークや野人による蛮行が増えていること、そしてイシルドゥアの禍ー一つの指輪が見出されたこと。

「じゃあ、エレンミアはずっと敵の情報を集めていたのか」
「私にできる事は今これぐらいしか無いからな。・・・・・・それより、ボロミアはこんな時間に何をしてたんだ?」
「眠れなくて館の中を歩いていた。・・・・・・そうだエレンミア、ここに来る途中ゴンドール人の男に会ったんだが、誰か知っているか?ガンダルフの友人と言ってたのだが」
「あー・・・・・・」

 ここはどう説明すればいいのだろう。イシルドゥアの末裔とは言い辛いし、かといって自分の友人だと言うにも何か違う気がする。

「会議はいつだ?」
「明日だが」
「なら明日になれば分かると思う。彼も出席するはずだ」
「・・・・・・そうか」

 納得していない様子のボロミアに客間へ戻るよう促し、エレンミアも部屋に戻ることにした。
 橋の近くを通っていった方が早いかもしれないと思いいつもの道と違う方向を進んでいると、エルフ耳が二人分の話し声を拾う。
 エレンミアはそのまま進もうか一瞬迷ったが、やはり足を止め、元来た道を引き返した。








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