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裂け谷

 ブルイネン川におけるナズグル撃退から数日。ようやくホビットと一緒に裂け谷へ到着したアラゴルンはまず館の主であるエルロンドの元へ行った。

「エルロンド卿」
「アラゴルンか。よく指輪所持者を見つけてくれたな」
「いえ。私は・・・・・・何もしていません。彼をこの谷へ運び、守ったのはエレンミアです」
「だがそなたがホビット達を見つけていなければどうなっていたか分からん。我が娘が見つけていたかもしれんし、敵が先にやって来て指輪が奪われていたかもしれん」
「・・・・・・。エレンミアは今どこに?」
「到着してから昨日まで部屋で眠っていたが、今朝目を覚ました。おそらくまだ部屋にいるだろう」

 一礼して部屋を出るとアラゴルンは真っ先に東屋に向かおうとしたが、その前に湯浴みをしようと湯殿へ行った。おそらくこのまま会いに行ってもすぐ湯殿へ行けと言われるに違いない。綺麗にしてからエレンミアに会っても遅くはないだろう。
 数十年ぶりに訪れる館の中を進んでいると、ある絵画が壁にかけられた道に入る。絵の正面には大きな彫刻がなされた台が置かれていて、台の上に置かれたそれをアラゴルンは一瞬見たがすぐに視線を外し、歩調を早めてその場を離れた。







+ + + + + + + +









「(暇だな・・・・・・)」

 昼ごろになって退屈になり始めたため部屋を出ようとしたら義姉に全力で出るのを阻止された。部屋にいても読書と外を眺めることしかすることがない。フェアロスの様子を見に厩舎へ行きたいが、それも夜になるまで叶いそうになさそうだ。ぼすんと枕に顔をうずめ、もう一眠りしようか考えていると誰かが部屋に来る気配がしてエレンミアは誰だろうとぼんやり考えた。
 アルウェンではない。双子の兄達はさっき中庭を歩いているのを見たから違うだろう。足音がどんどん近づき、訪問者を迎えようとエレンミアが体を寝台から起こすとエルフの装束に身を包んだアラゴルンが茶器と菓子を手に現れた。

「体調はどうだ?」
「・・・・・・」
「エレンミア?」
「・・・・・・あ、ああ。だいぶ良くなったよ」
「なら良かった」

 湯浴みをしたのだろう。アラゴルンは全体的にこざっぱりとしていた。髭も整え、髪はきちんと櫛を通したのか落ち着いている。服装のせいもあるだろうが、何処となく王の風格が現れたその姿をエレンミアが恰好良いと思っていると、アラゴルンがニヤリと笑う。

「見違えたか?」
「こ、この間よりマシになったと思っただけだ」
「エレンミアがそう思ってくれたなら嬉しい。お茶とスコーンを貰ってきたんだが一緒に食べないか?」
「食べる」

 アラゴルンが寝台の側にある小卓に持っていた茶器とスコーンを置くと、エレンミアが慣れた手つきで茶を注ぐ。そしてクリームをたっぷりと付けたスコーンを口にした瞬間エレンミアが幸せそうな表情を浮かべるとアラゴルンは思わずクスリと笑った。

「スコーンを食べる時その表情になるのは相変わらずだな」
「まあな。こればっかりは幸せの一言に尽きる」

 普段は口調も格好も男のようなエレンミアでも甘いものや菓子には弱いらしく、この表情が見たくてアラゴルンはエレンミアが側にいる時はよくお茶に誘っていた。
 あっという間に自分の分を食べきったエレンミアは満足気な顔をしていて、もう一口茶を飲もうとしたアラゴルンはエレンミアの頬にクリームの塊が付いていることに気がつく。

「エレンミア、少しじっとしていろ」
「ん?」

 一瞬視界の半分がアラゴルンの顔に占められたかと思うと、頬に唇があたり更には少し舐められたような感触がしてエレンミアは何をされたのか分かるまで少しも時間を要することなく、みるみる頬を赤らめた。

「アラゴルン!!」
「何だ?」
「何だ、じゃない!!いきなり何するんだ!!」
「クリームが付いていたから取っただけだが」
「普 通 に 取 れ。というかその前に私に言えばいいだろう!」

 全く悪びれないー寧ろ反応を楽しんでいるような
様子にエレンミアが小さなため息をつく。

「怒るだけの元気が出るまで回復したとアルウェンに伝えておく。ここに来る途中様子を見てきてくれないかと頼まれたのでな」
「義姉さんに?」
「ああ。・・・・・・エレンミア、彼女はいつもお前のことを気にかけている。あまり無理をするな」
「・・・・・・分かった」
「私もエレンミアに倒れるまで行動して欲しくない。何かあれば心配する者がいることを忘れないでくれ」

 言いたいことはそれだけだ、と言って茶器と空になった皿を盆に載せてアラゴルンは部屋を出る。しばらく出入り口を見つめた後、今しがた言われた言葉を反芻しながらエレンミアは布団の中に潜り込んで眠りについた。
 


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