先頭にいたナズグルとエレンミアが剣を交えると、他三人のナズグルがホビットに近寄る。咄嗟にフロドを後ろに行かせて盾になろうとするが、ナズグル達相手にそれは一時の時間稼ぎにもならない。剣を構えても軽くあしらわれ突き飛ばされた。
せめてフロドだけでも逃さなければ。エレンミアは剣に力を入れ、ナズグルが一瞬怯んだ隙に後に引いてフロドの元に走るがエレンミアの気配を察知したナズグルの一人が急に此方を向き甲冑に包まれた手でエレンミアの喉を掴んだ。
「か、・・・・・・は・・・・・・っ!」
ぎりぎりと締め付けられ、逃げようともがくが力が入らず刀が地面に落ちる。その間にさっきまでエレンミアが足止めをしていたナズグルが指輪をフロドから奪おうと剣を抜いて今にも彼を刺し殺そうとしていた。早くこの手を外さなければ指輪が奪われる。サウロンが復活してしまう。
フロドの叫び声が聞こえ、エレンミアが唯一まだ動かすことのできる足を上げて蹴りを入れようとしたその瞬間、剣と松明を手にしたアラゴルンが現れナズグルに襲いかかった。アラゴルンが松明を振り回し、黒衣に炎が引火すると近くにいたナズグルにも引火し、エレンミアは地面に落とされる。激しくせき込んだ後エレンミアは少し息を整え、愛刀を拾うと背後からアラゴルンに斬りかかろうとしていたナズグルの剣を受け止める。うまく力が入らずなんとか持ちこたえていると、急にナズグルが顔を近づけ言葉を発した。
《感じる・・・・・・、呪われた者の血を。お前の中に》
「っ・・・・・・!」
力を振り絞り押し返すと、後ろからアラゴルンがまだ炎がついたままの松明を投げ命中させる。突然の攻撃にナズグルは絶叫を上げ、他と同様闇の中に退散していった。
サムがアラゴルンを呼び、二人でフロドの元に駆け寄る。
「モルグルの刃で刺されたな・・・・・・。私の手には負えない、エルフの治療が必要だ」
「その前にアセラスで応急処置を」
「持ってるのか?」
「残念ながらない。でもトロルの森で生えてるのを見た事がある、まずはそこに行こう」
ぐったりとしたフロドをアラゴルンが肩に担いで6人は風見が丘を後にした。
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トロルの森に到着すると石化したトロルの前でフロドを下ろし、アラゴルンとエレンミア、サムで手分けしてアセラスを探しに行った。もう月が高く上がっているため、松明の明かりだけではエルフの目をもってしても植物の種類を見分けることは難しい。おまけにアセラスは昔ほど群生していないため昼間でも探すのにはかなり時間がかかる。
四半時ほど過ぎた頃、アラゴルンはようやくアセラスを見つけると二人と合流してからフロドの元に戻った。
傷口を暴き、噛み潰したアセラスをあてがうとフロドが喉から出したような悲鳴をあげた。瞳孔は開ききり、瞳全体が乳白色を帯びていてかなり危険な状態にあることが手に取るように分かる。
「もう時間がない。私が父上の元へ運ぼう」
「その体で大丈夫なのか?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃない」
愛馬に積んでいた荷物を降ろし、蔵を調整する。
「Andelu i ven! ( 道は危険だ )」
「Frodo fîr. Ae athradon i hir, tur gwaith nin beriatha hon.( フロドが死にかけてる。川を越えればエルフの力が私達を守るよ。それにナズグルなんか怖くない )」
「......Be iest lîn ( ・・・・・・気をつけてくれ )」
馬に乗りフロドを自分の前に乗せると、アラゴルンがエレンミアにもう一度声をかけた。
「エレンミア、走り続けろ。決して後ろを振り返るな」
「わかった」
エルフ語で馬に語りかけ、エレンミアは裂け谷への道を駆けた。絶対にフロドを死なせてはならない。たとえ自分の命に代えても、この小さき人を裂け谷の「最後の憩」館に送り届けなくては。