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疾駆


 案の定、ナズグル達は指輪の気配を察知してエレンミアを追ってきた。しかし幼い頃から馬で走る事と剣術には長けているエレンミアは木々の間を巧みに通り抜け、徐々に走る速度を増していく。朝になり太陽が出ればナズグルの活動は夜に比べて落ちる。昼時になれば更に弱まるだろうが、そこまで長く追いかけっこをしているつもりはない。
 時折伸びてくる手を避け、背後を囲まれながらもエレンミアは懸命に馬を走らせる。正直言ってエレンミア自身は昨晩の戦闘でかなり体力を消耗していた。だからと言って集団で移動すれば裂け谷への到着は遅れるばかりだ。そうなればフロドが死んでしまうかもしれない。

「Noro lim Fealoss, Noro lim! ( 走れフェアロス!走れ! )」

 これ以上速度を上げるのは心苦しいが、すぐ後ろにナズグルが迫っている。時折伸びてくる手を避けながら森を抜け、平原を駆け抜け、ようやく目の前にブルイネン川が見えてくるとエレンミアはもう一息だと言うようにフェアロスの腹を蹴って川を越えた。
 すぐにナズグルも川まで到着するが火と同じように苦手な水を目の前にして5人全員が止まり、うち一人が前に進みでる。

《その者をこちらに渡せ!!》
「奪いたければここまで来るがいい!!」

 抜刀して戦闘の意を見せるとナズグルも全員剣を抜き振りかざす。エレンミアも覚悟を決めナズグル達が川の中腹まで来た、その時。

『"Nin o Chithaeglir, lasto beth daer,Rimmo nin Bruinen, dan in Ulair!
Nin o Chithaeglir, lasto beth daer,Rimmo nin Bruinen, dan in Ulair!"』

 義父と魔法使いが呪文を唱える声が辺りに響き、川の水位が上がる。そして奥から濁流が流れてきたかと思うと、水が複数の馬の形になりナズグルに襲いかかった。逃げようとしても時はすでに遅く、濁流は川にいた全員をみ込み馬ごと押し流すとまた元の静かな川へと戻る。
 エレンミアがそれを静かに眺めていると、フロドが馬から落ちかけて慌てて抱きとめる。

「フロド!しっかりしろ、今父上の元へ連れて行くからそれまでは・・・・・・っ」
「エレンミア!!」

 名前を呼ばれて後ろを振り返ると、双子の義兄二人が護衛のエルフを連れてこちらに来ていた。

「フロドを父上の元に連れて行ってくれ!」
「ああ。だがエレンミアも一緒に治療を受けるんだ、身体から黒の息を感じる」
「え?」

 そんな筈はないと言おうとしてエレンミアは急に視界が回転し、身体が地面に叩きつけられるのを感じた。力が入らず起き上がれないでいるとエルラダンがエレンミアの腕を掴んで自分の肩に乗せる。何か声が聞こえるが、そのままエレンミアは意識を手放した。









+ + + + + + + 









「こんなになるまで頑張るなんて・・・・・・」

 治療を終え、部屋の寝台に寝かされた妹を見ながらアルウェンは呟いた。隣で見守る魔法使いガンダルフも心配そうな表情を浮かべている。

「すまないアルウェン。儂が捕まらなければエレンミアに辛い思いをさせずに済んだものを・・・・・・」
「貴方の所為ではありません。悪いのは全てサウロンのとその手下。ですがエレンミアは父に頼まれたことを遂行する事や戦う事に気を入れすぎている気がします。時にはこちらがひどく心配する程に」
「確かにの・・・・・・」
「ミスランディア、私はいつか妹がマンドスの館へ旅立ってしまうのではないかと不安でなりません。ですがエレンミアを館に永遠に引き留めておく何て事私には出来そうにないのです」
「エレンミアもお主が心配している事は知っておるじゃろう。そなたやエルロンド卿、双子の兄を置いて逝く気などこの娘にもないはずじゃ」

 露台から出ると、父が招集した各種族の代表が館の門をくぐるのが見えた。もう直ぐ中つ国の命運を賭けた戦が起ころうとしている。どうかエレンミアがそれに巻き込まれませんようにと夕星は静かにイルーヴァタールへ祈った。
 


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