最近朝日奈家の家族になった絵麻ちゃんが、一番仲良しなのは、自分のお姉さんにあたる、兄弟のなかで唯一の同性である、琉奈ちゃんでした。



「え、琉生……さん?」



「ううん……。わたし、琉奈。琉生兄さんの、双子の妹。」



「えっ!?双子だったんですか!?」



「ちぃちゃん、だよね?………これから、よろしく、ね。」



「は、はい!よろしくお願いします!」



「ふふふ、そんなに、かしこまらなくても、大丈夫だよ。」






そう優しく微笑まれたとき、絵麻ちゃんは琉奈ちゃんのことが大好きになりました。
絵麻ちゃんは、琉奈ちゃんがエステティシャンのお仕事をしていること、チョコレートが大好きなこと、でも、ホワイトチョコが苦手なこと……色んなことを知りました。
絵麻ちゃんが一番驚いたことは、琉奈ちゃんも琉生兄さんと同様に、絵麻ちゃんのペットであるジュリさんの言葉が分かることでした。ジュリさんは、琉生兄さんと同じく、琉奈ちゃんを「ちぃちゃんを守る会」のメンバーにし(琉奈ちゃんも意外とノリノリになって)、三人と一匹は、とても仲良くなりました。






ある休日のお昼下がりのこと。絵麻ちゃんは、リビングルームで雑誌を読んでいました。ほかの兄弟たちは、皆、自室に篭っていたり、仕事だったり、出掛けたりしていました。いつも彼女の肩に乗っているジュリさんは、お昼寝中です。
そこに、琉奈ちゃんが眠そうに目をこすって、リビングルームに入って来ました。




「……ふわぁ……、ちぃちゃん、おはよう」



「お、おはようございます!琉奈さん!」




「おはよう」といっても、琉奈ちゃんは、休日はいつもお昼に起きてきます。(たまに、そのまま一日中寝たまま、次の日、なんてこともザラにあるのですが。)
でも、琉奈ちゃんが「おはよう」と言ったら、こちらも「おはよう」と返さなければいけない、と言うのは絵麻ちゃんの意見です。絵麻ちゃん、すっかり琉奈ちゃんっ子です。




「ちぃちゃん、今から、時間、ある?」



「はい、大丈夫ですけど……」



「お出掛け、しようか。」



「………!!是非いきたいです!」




絵麻ちゃんが一気に目をきらきらと輝かせました。彼女の心の中は(琉奈さんと、お出掛け……ひょっとしてこれって、デート!?きゃー!!)と嬉しさで踊り狂っていた事はここだけのお話。



「じゃあ、着替えてくる、ね」



「はい!待ってます!!」





琉奈ちゃんが部屋を出ようとしたとき、不意に琉奈ちゃんの足が止まりました。そういえば、今日は琉生兄さん、いないから、お洋服……どうしよう。
琉奈ちゃんは、いつも琉生兄さんに来ていく服を選んでもらっていたのですが、今日は琉生兄さんはお仕事で出かけています。しかし、そこで琉奈ちゃん、ピンときました。




「……ちぃちゃん、」



「は、はい!」



「わたしのお洋服、選んでくれない?」



「!!勿論です!」




琉奈ちゃんっ子の絵麻ちゃん、首を縦に降ってもげそうなほど、すぐにお願いに応じました。











今日の琉奈ちゃんのお洋服は、光兄さんがイタリアのお土産で買ってきたという、キャメルのカットソー。肌触りの良いシルクの生地と胸元のレースとリボンが飾らない華やかさを演出しています。ボトムスは落ち着いた黒のパンプキンパンツ。そして、脚には寒いから、とニーハイソックスを着用。アウターは、去年の誕生日に弟の風斗くんに貰ったナポレオンコートです。大人可愛い、琉奈ちゃんによく似合うコーディネートになりました。
絵麻ちゃんは、とても満足げに琉奈ちゃんを見て、感嘆の声をあげました。
メイクとヘアアレンジを手早く済ませた琉奈ちゃんは、興奮気味の絵麻ちゃんと一緒に、出かけました。










電車を乗り継いで30分。二人が来たのは、つい最近オープンしたケーキ屋さんです。お洒落にあまり興味のない琉奈ちゃんも、やっぱり女の子。甘いものには目がありません。ショーケースのまえに前かがみになって、きらきらとケーキに目を向けています。





「琉奈さん、決まりましたか?」



「も、もうちょっと、待って、ちぃちゃん。」




どうしようかな。どれもとても美味しそうで、迷ったらキリがない。でもやっぱり一番心惹かれるのは、琉奈ちゃんの大好きなチョコレートのケーキでした。




「じゃあ、その、『エンジェル・ショコラのフランボワーズのせ』、ください。ちぃちゃん、は?」



「えっと、じゃあ、『蜂蜜漬けのフルーツ盛りだくさんタルト』で、お願いします。」




「あと、温かい紅茶、ひとつはミルク、もうひとつはストレートで、お願いします。」








それぞれケーキと飲み物を頼んだ二人は、空いてる席に座って、ケーキを食べ始めました。ケーキの甘さと少しのブランデーの薫りが口いっぱいに広がります。
琉奈ちゃんはミルクティー、絵麻ちゃんはストレートティーを啜りながら、甘くて少し冷えたケーキに舌鼓を打ちます。






「……うん、すごく、美味しい!」




「はい!紅茶とも良く合いますね!」




「…………」



絵麻ちゃんがそう口に出した途端、琉奈ちゃんは、じぃーっと絵麻ちゃんの方を見ました。そして、自分が食べていたケーキをフォークで一口サイズに器用に切り分けて、絵麻ちゃんに差し出しました。



「…一口、あげるね。ちぃちゃん、あーん」




「えっ!?」



絵麻ちゃんはドキドキで胸が高鳴りましたが、琉奈ちゃんの「チョコレート、きらい?」という上目遣いにやられて、パクっとなりふり構わず差し出されたケーキを食べました。



「あ、美味しいです!チョコレートの深みと、フランボワーズの甘酸っぱさがすごく合ってます!」




「でしょう?…………ちぃちゃんのも、頂戴?」




またもや上目遣いをされれば絵麻ちゃんになす術はありません。絵麻ちゃんは自身のタルトを切り分けて、琉奈ちゃんの口に運びました。



「琉奈さん、あーん」



「あー……ん、こっちも、美味しい……」




そのあーんの瞬間は、絵麻ちゃんにとっても、周りにとっても幸せな時間でした。(お店の人は、「そこの周りに華が咲いた」と言います。)






「ここね、お店のお得意様に、教えてもらった。紅茶と、ケーキの相性が、すごく良くて、雰囲気も落ち着いてて……」




お仕事忙しくて、なかなか来れなかったの。だから、ちぃちゃんと一緒に来れて、凄く嬉しい。


そう口にした琉奈ちゃんは、とても嬉しそうで、絵麻ちゃんはとても、幸せな気分になりました。






「ねぇ、ちぃちゃん、」




「?なんですか?琉奈さん」




「家にも、買って帰ろっか。ケーキ」



弥くん、羨ましがっちゃうしね。そう笑った琉奈ちゃんに、絵麻ちゃんも一緒に笑い合いました。



そして、「リスはケーキ、食べられない、よね……」と必然的にのけ者にされてしまったジュリさんが、へそを曲げてしまうのは、そう遠くないお話。












おんなのこの秘密のお茶会




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