AM6:30

――pipipipipipi……

朝日奈家の長女・琉奈ちゃんは、お仕事がある日はいつもこの時間に目を覚まします。朝日奈家のお母さん的お兄さん、次男の右京兄さんに就職祝いに買ってもらった、電波目覚まし時計がうるさく鳴り響きます。
目覚まし時計を止めた琉奈ちゃんは、ベッドの上で、朝のストレッチをしてから、トイレを済ませ、歯を磨きます。ストレッチのお陰で体は目覚めても、まだ脳が目覚めない琉奈ちゃんは、とろん、とした目をしています。
歯磨きを済ませたあと、琉奈ちゃんの部屋に誰かの訪問を知らせるチャイムが鳴りました。琉奈ちゃんの双子の兄である琉生兄さんです。



「琉奈ちゃん、おはよう」


「琉生にいさん……、おはよう」


「じゃあ今日も、着ていく服選んで、髪の毛、してあげる、ね」


「……はぁい」



琉生兄さんが手に持っていたのは、ブラシが付いたドライヤーに、ヘアスプレー、シャンパンゴールドの色をしたシュシュでした。
琉生兄さんは、一回それを琉奈ちゃんの部屋の鏡台に置くと、クローゼットから、白のフリルブラウスのワンピースに、シュシュと同じシャンパンゴールドの刺繍が施された、濃紺のカーディガン、そして身体のラインを綺麗に見せるためのアンティークのベルト、黒のタトゥータイツを出しました。琉奈ちゃんの今日着るお洋服です。


「はい、これが今日の、琉奈ちゃんのお洋服。後で、この間買ったピーコート、出してあげるね」


「ありがとう、琉生兄さん」


そう言うと、琉奈ちゃんはいそいそと脱衣所で着替え始めました。その間に、琉生兄さんは琉奈ちゃんのヘアアレンジをするための準備に取り掛かります。
琉奈ちゃんは、エステティシャンという美容系のお仕事についていながら、自分の外見には無頓着な女の子でした。本人は特に何も気にしていませんでしたが、琉生兄さんはそんな双子の妹のために、琉奈ちゃんのお仕事がある日は毎日のように彼女のお部屋におしかけています。
本当はメイクもしてあげたいらしいのですが、琉奈ちゃんは最低限のメイクだけでその可愛らしさが引き立つので、それだけは琉奈ちゃん本人がしています。




「琉生兄さん、」


「着替えれた?……じゃあ、こっちで、髪の毛、しようか。」



そうこうしている内に、琉奈ちゃんが脱衣所から出てきました。今日も今日とて、琉生兄さんが選んだお洋服が、よく似合っています。
琉生兄さんが琉奈ちゃんを鏡台に促すと、ヘアアレンジを始めました。まずはブラシが付いたドライヤーで、琉奈ちゃんの寝癖のついた髪を梳かしていきます。ドライヤーから出る温かい風に、琉奈ちゃんが目を細めていると、次はコームと琉生兄さんの心地良い指が入ってきました。琉生兄さんはコームを使い、手際よく、琉奈ちゃんの髪を編んでいきます。



「琉生兄さんの指、気持ちいい……」


「そう?良かった…」


「今度また、ハンドクリーム、持ってくる、ね」


「うん、楽しみにしてる」



流石双子と言ったところでしょうか、会話が心地良いリズムで流れていきます。

最後にヘアスプレーで固めれば、完成です。琉奈ちゃんの今日のヘアアレンジは、編み込みを混ぜこんだ、サイドアップスタイル。シャンパンゴールドのシュシュで、お仕事で邪魔にならないように、シニヨンにして留めています。



「はい、完成。………うん、琉奈ちゃん、凄く可愛い!」



「わぁ、琉生兄さん、今日も速いね。いつも、ありがとう」


「どういたしまして。」




今日も琉奈ちゃんを可愛くして満足した琉生兄さんは、約束通りピーコートを琉奈ちゃんに渡し、部屋を出て行きました。
そこから琉奈ちゃんはメイクに取り掛かります。琉奈ちゃんはナチュラルを好むので、あまり長い時間のお化粧はしません。


AM7:20。
メイクを手早く済ませた琉奈ちゃんは、お仕事用の鞄に携帯電話と好物のチョコレートを入れて、先程琉生兄さんから渡してもらったピーコートを持ち、部屋を出ました。





「行ってきます。」
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