日曜、朝飯を食ってたら京兄に琉奈姉を起こして来いと言われた。


「えー?何でオレが。つかそれ琉生兄の仕事じゃん」


「琉生は朝早くに仕事でもう家を出ましたよ。流石に朝の5時に仕事が休みの妹を起こすわけにはいかないでしょう?」


文句なら琉生に言ってください。確か、朝が早い分昼から休みの筈ですよ、琉生は。
そう言われて、京兄は怒ると怖ええから致し方なく、オレは琉奈姉を起こしに行くことになった。





さて、琉奈姉の部屋の前に来たはいいものの、琉奈姉はすんなりと起きてくるんだろうか。オレの予想からして、熟睡型の琉奈姉はそうやすやすとは起きてはくれないと思う。インターホンを鳴らしても返事は無かったから、管理人室から借りてきた部屋の鍵を鍵穴に差し込み、扉を開ける。



「おーい、琉奈姉、起きてるかー?京兄が片付かねえから朝飯早く食えって煩いんだけど……あれ?」



ベッドに琉奈姉の姿がない。トイレにでも言ってんのか?キョロキョロしてみても、そこに人がいる気配がしなかった。


「おかしいな……」


まさか琉生兄の部屋か?ポケットのなかの携帯電話で琉生兄に電話をかける。あ、やべっ、仕事中じゃ出ねえか?



『はい、』


「あっ、琉生兄?仕事中ごめん」


『?侑介くん?どうしたの?』


「あのさ、琉奈姉って琉生兄の部屋で寝てたりする?」


『ううん、琉奈ちゃん、昨日は自分の部屋で寝てたよ?』



どうやら、オレの予想は外れてたらしい。


「いやー、それがさ。琉奈姉部屋にいねえんだよ。だから琉生兄の部屋で寝てんじゃないかって思ってさ」


『うーん……あ、お布団よく探した?』


「いやー?ベッドもペタンコで人がいる気配もねえし……」





そう言いながらベッドの上の掛け布団をひっぺがすと、白い塊がそこにいた。



「ウワアアアア!?」


『!?侑介くんっ?どうしたのっ?』


「あ……なんだ、猫かよ……び、ビックリさせんじゃねえよ……」


白い塊は猫だった。ふわふわの白い毛が何となく琉奈姉を連想させて、思わずクスリ、と笑ってしまった。



『侑介くん、大丈夫?』


「あ、あぁ大丈夫。琉奈姉のベッドの中に白猫がいてさ」


『猫?』


「おおー。白い毛で、超ふわふわ!琉奈姉いつから飼い始めてたんだ?」


その猫を撫でてやると、猫がパッチリと目を覚ました。うわ、目の色まで琉奈姉に似てる。
そしてその猫が、にゃーと鳴くとその鳴き声を受話器越しから聞いたのか、琉生兄がえっ、と声をあげた。


『ねえ、侑介くん、その猫の声、もっとよく聞かせて?』


「ん?いいけど……」


よいしょっ、と猫を抱き上げて、顎を撫であげる。すると気持ちよかったのか、うにゃーっ、と鳴いた。


『!?やっぱり、琉奈ちゃんっ?』


「あ?どうしたんだよ、琉生兄。だから琉奈姉は部屋にいない……って、ああっ!」



本来の目的を忘れていた。オレは琉奈姉を起こしに来てたんだった。


『ねえ、侑介くんそこにいる猫に、電話近づけてくれない?』


「は?なんでいきなり…」







『よく聞いてね、侑介くん、その猫……ひょっとしたら、琉奈ちゃんかも、しれない』




「にゃーっ!」





は?






「ハアアアアアア!?」



え?マジで!?そんなのありえるんか!?つか、この猫が琉奈姉?ウソだろ!?



『とにかく、僕もお仕事終わったら、すぐ帰ってくる。だから、それまで琉奈ちゃんのこと、よろしく、ね』


「は!?ちょい、琉生兄、待っ」


プツッ、ツーッツーッ……


「……うそ、だろ?」


「にぃーっ、にゃあ!」


その言葉に反応するみたいに、猫が首を横に振った。


***


「……はあ、まじで琉奈姉なんだよな、おまえ」


「にゃー」


今なら琉生兄の動物と話せるっつうことを信じられるかもしれない。確かに、本来琉奈姉のいた場所にこいつはいたし、白い毛に薄い紫色の目……見た目も琉奈姉そのもの。それに、


「にぃーっ!」


「あぁっ!ダメだって!猫はチョコ食ったら!」


このチョコレートへの執着ぶりは間違いなく琉奈姉だ。


「……ったく、チョコは猫にとって毒なんだぞ?琉奈姉猫のまま死んじゃうじゃん!」


「ぅにゃー……」


しょんぼりした琉奈姉はオレのほっぺたを肉球でぽふぽふ叩いてきた。なんだこれ、全然痛くねえし、むしろなんか可愛い。


「よっしゃ、んじゃあこれならどうだー!?」


「んにゃああああ」



片腕で仰向けに琉奈姉を抱き上げてもう片方の手でお腹を擽る。気持ちいいのかくすぐったいのか、琉奈姉はテンションの高い声を上げた。
それから床に琉奈姉を下ろして、猫じゃらしをぶらぶらさせる。うわあ、猫のジャンプ力やべえ。オレこんな元気に遊ぶ琉奈姉を人間だった時ですら見たことねえわ。



そうこう遊んでいるうちに、時計は13時過ぎを指していて、部屋のインターホンが鳴った。きっと琉生兄だ。ドアを開けるとやっぱりそこには琉生兄が立っていた。なんか息切れしてねえ?


「ゆ、侑介くん。琉奈、ちゃんはっ?」


「おぉ、待ってたぜ琉生兄!」


部屋に上がり猫になった琉奈姉を見た瞬間に、琉生兄は琉奈姉を抱きしめた。


「琉奈ちゃん……っ!どうして、猫さんに、なっちゃったの?」


「にゅーっ……にゃぁー」


「うんうん……そう、なの……?」


「な、なあ、琉生兄。琉奈姉なんて言ってんだ?」


「えっとね、朝起きたら、もう猫さんになってたんだって。だから、何が原因かも、わからない、って……」


「えぇー……マジかよ……」


「でも、朝起きてなってたから、明日には、戻ってるかもしれないんだって」


「まじで!?」


「こういう、人が動物になっちゃった展開っていうのは、大体、一日で元に戻るんだって、椿兄さんが言ってた」


「つば兄の知識かよ!!」



翌朝、琉奈姉は、無事に元の人間に戻った。






白猫 in WonderLand?






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