※百合夢注意!



目を覚ますと、紅茶の香りが漂っていた。

あぁ、この香りは、わたくしが差し上げた、セカンドフラッシュのダージリン。
ミルクティーを好むわたくしはオータムナルを飲むことがほとんどなのだけれど、牛乳が苦手というまるで子供のような彼女のために選んだ、ストレートで飲むに相応しい、マスカテルフレーバーを含んだもの。

本当はティーカップを温めてから、茶葉を蒸らして……と、準備というものがあるというのに、そんなこと彼女は気にもしない。元から部屋にあったという、幼稚なキャラクターの描かれたマグカップにその紅茶を注いでいる。こんなことなら、一緒にティーカップとソーサーのセットを二つ、渡しておけばよかったですわ。
注がれて湯気とともに香りがふんわりと鼻腔を擽るそれに、貴女はスプーン一杯分の蜂蜜を垂らして、掻き混ぜ、溶かして行く。
蜂蜜を入れるだけで随分と甘やかになったダージリンを、貴女は冷ますように息を吹きかける。あぁ、そういえば、貴女は極度の猫舌でしたわね。

マグカップにおそらく並々と注がれたであろうダージリンに口をつけた彼女は、とても神秘的で、それでいて時折見える赤い舌と、冷ますために尖らせる唇。そして、人並に白い肌にのせた、少し上気した頬のピンクが、言いようのないほどに官能的だった。




「……セレスちゃん。おはよう」


「えぇ、おはようございます、なまえ」


「セレスちゃんも、紅茶、飲む?……っていっても、これ、元々はセレスちゃんからの贈り物だけど」



眉尻を下げて困ったように笑う彼女に、思わず小さな溜息が零れた。そんな風に笑っても愛らしいなんて、卑怯ですわ。わたくしは、起きたばかりでいつものゴスロリ服も、ツインテールのウィッグもないというのに。

かぶっていたシーツで身体を隠しながら、彼女に近づいて、そっと後ろから抱きしめるように密着する。
嗚呼、人肌は、とてもあたたかい。



「なまえ、それはわたくしが貴女に贈ったもの。貴女のお子様な味覚に合う、ストレートティーが一番好ましい飲み方のダージリンですわ。わたくしのミルクティー用のオータムナルのダージリンではありません。」


「そっか……」


「ですが、そのダージリンなら、わたくしのカバンの中に入っていますわ。それをとって、わたくしのロイヤルミルクティー、入れてくださる?貴女の専用業務ですわ」


「……!はい」


「何を笑っているんですの?」


「ううん、セレスちゃん、すごく可愛いなぁって」




何を言い出すのかと思えば。嘘で塗り固められたわたくしなんかより、貴女の方がずっとずっと、綺麗で、清らかで、愛らしいのに。



「今日のなまえのお洋服は、わたくしとお揃いの色違いにしましょう。なまえの髪は綺麗で、あまり痛むのは心苦しいですから、チョコレート色のハーフポニーテールのカールウィッグを付けて」



お化粧は、わたくしがとびっきりの魔法で可愛くしてあげますわ。そして、お揃いのティーセットと、アールグレイを買いに行きましょう。

わたくしはハイエンドな嘘つきですけれど、この時間のわたくしだけは、いつも本当なの。





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