「怜くん?……離してくれないと、わたし、レポート書けないよ」
「嫌です。なまえさん、そのまま僕を帰そうとしてるじゃないですか……!」
「でも怜くん、日付が変わる前には帰らないと。親御さん、心配しちゃうよ?」
「いいんです。僕、もう高校生ですから。親には泊まると連絡すれば!」
だから、僕に構ってくれるまで話しませんんんんんん
わたしの腰に腕を回してお腹に頭をぐりぐりしてくる、年下の恋人、竜ヶ崎怜くん。彼との出会いは、彼が中学3年のとき。彼が志望校として選んだ岩鳶高校の3年生だったわたしは、高校のオープンキャンパスのお手伝いで、彼とペアになって校内を回る事になった。そのとき、彼は何故かわたしに一目惚れなるものをしてしまったらしく、押しに押されて、正直言うと流れで彼との交際に至ったのだ。
それから約1年、大学に入って、レポートにサークルに忙しくなったわたしと、岩鳶高校に入学して、陸上部に入っていたけれど、水泳部に転部して、忙しくなった(はず)の怜くん。前より会える日は少なくなってしまい、久々に会ったからか、怜くんは物凄くわたしに甘えている……というか、駄々をこねている。
レポートより僕に構ってください、僕よりレポートの方が大事なんですか、僕はなまえさんの恋人なのに……などなど。よく次から次にそこまで言葉が出てくるものだ。逆に感心する。
「それに、僕知ってるんですからね!そのレポート、まだ提出期限ずっと先じゃないですか!」
確かに今しようとしてるレポートは、提出は、3週間後の授業のある日だ。それに、内容もそこまで難しいものではない。だけれど、だからこそ先にちゃっちゃと済ませておきたい、という気持ちがあるのだ。テスト勉強や、夏休みの宿題と同じこと、先伸ばしにして、いい結果になったことは、一度もなかった。
「怜くん、これ片付けたら、提出期限までの3週間、ずっと怜くんと一緒にいられるんだよ?」
「……………」
あ、今ピクってなった。よし、後ひと押しだ。
「レポート終わらせられなくて、怜くんとこうしてラブラブ出来なくなるの、わたしはやだなぁ」
「……………」
自分でラブラブとか言っちゃった、うわ、イタいわ、わたし。でも、もうちょっとだ。
「怜くんは、わたしと会えなくなっちゃっても、いいの?」
「…………い、」
「い?」
「嫌ですううううううう」
遂にえぐえぐと泣きはじめてしまった。あれ?これってわたしが泣かせたことになるの?
「なまえさんが構ってくれないの、嫌、ですけど、なまえさんが僕と会えなくなるの、もっと、いやですうううううううう」
「うん、わたしも怜くんと会えないの嫌だから、ちょっとだけ、我慢できる?」
「し、しますっ!我慢、できますううう!」
「うん、じゃあ、約束のちゅーね」
これだけ見ると、わたしが怜くんを弄んでいるように見えなくもないけれど、わたしに向けられていた矢印は、見事にわたしからも怜くんに向けるようになって、流れで始まった交際は、結果オーライだと言えるだろう。
これでも、私だって怜くんにベタ惚れなんだ。こんなに熱烈に愛を伝えることができるほど、わたしは若くはないけれど。
「ちょっとの我慢がすぎれば、あとはいっぱい怜くんといられるよ。これが終わったら、一緒にご飯作って、食べて、あったかいお風呂に入って、おんなじベッドでいちゃいちゃしながら眠ろうか」
そう言って、私は怜くんの涙で真っ赤な目を遮っている眼鏡を外して、目もとにキスをした。そしたら、涙を引っ込ませた怜くんは、
「や、約束です!」
って言って自分の唇と私のそれを合わせた。あれ?舌、入ってない?
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